常総市を中心とした鬼怒川水系の氾濫による水害は、関東平野がこれまで多くの水害の上に形成されてきた事実をすっかり忘れている私たちの社会に大きな警鐘を鳴らしたものになりました。被災された方々には心よりお見舞い申し上げますが、このような水害は首都東京をはじめとして、大河川の流域ではどこでも起きうるという事実を私たちは忘れてはなりません。かつて戦後の10数年間は高度経済成長期の東東京を中心に毎年のように水害は起きていましたし、西部の多摩川でも水害は珍しいことではありませんでした。今回、破堤した鬼怒川の石下付近は常総市ができる前は石下町であったところで、多くの人たちはここでこれほどの水害という記憶を持っていられる方は少ないと思います。ましてやTXができたことで、都心部やつくば市に通う新たな住民が急増していることもあり、地域の過去の災害史には関心を持たれない方も増えているかもしれません。今回私たちのチームが立ち上げた災害対応のポータルサイトには、鬼怒川、小貝川の過去の災害についてまとめられた情報にもリンクがありますので、ぜひご利用ください。
さて、ハザードマップについてはいろいろな意見が出ているようですが、これを機会にお住まいの地域のマップを再確認していただくのはよいとしても、正しくご理解いただけているか、やや不安になるところもあります。これは水害に限ったことではありませんが、「ハザードマップ」と称されて公開されているものには、おおむね2種類のものがあるようです。一つはある災害を特定して、それによる災害をもたらす現象の強度(これが「ハザード」です)を図で表現したもので、これはいわば災害想定に基づくハザードマップです。もう一つは災害の特定が科学的には難しいので、災害を特定せずにある種の「標準的な外力」を前提として作成したハザードマップです。たとえばつくば市では太平洋プレートの沈み込みに伴う地震による揺れの評価もしていますが、それよりも市の直下に起きる地震による揺れのほうが、結果的に大きな揺れとなるので(それだけプレート境界からは離れているので)、直下地震による揺れを評価したものがハザードとして使われることが多くなっています。これは外力が特定できない場合に、防災の備えとして考えておくには合理的な視点ではありますが、一方で「実際に起きる」災害の強度を表現したものとは整合しないということを理解しておく必要があります。よって災害対応に当たる行政組織や市民が、災害直後にこのハザードマップだけを前提にして災害対応するのは、誤った行動につながる可能性があります。災害対応は実際に起きている事態をいち早く把握して、それに応じて動かねばなりません。
水害の場合は特にこの点が大事です。国土交通省ではかなり精度よく予測していた場所の一つらしいですが、堤防の決壊場所を正確に想定するのはなかなか難しいことです。よって市内のどこまでが浸水するかは、起きてみないとわからない部分が必ず存在します。実際に私も常総市内を回ってみて、ほんのわずかの差で床上浸水になったところと、床下浸水で免れたところとが隣接しているのを見ました。避難も含めて水害は先手先手で対応することが肝心ですので、ここには来ないなどと思い込んでいるのはたいへん危険なことだということを忘れないでください。
今回の水害では私の知人もずいぶん罹災されており、私も昨日まで片付け支援に行っておりました。被災された方々の復旧のためにも、ボランティアの方々の活動とともに、被災地外の方々からの経済的支援が一番望まれます。皆様の温かいご支援をお願いします。