日本社会の急速な高齢化は世帯構造にも大きな変化をもたらしており、単身世帯が急増しています。単身者が増える理由はいろいろあって、生涯独身というライフスタイルの増加もさることながら高齢化により死別や離別が増えてもいます。そのような意味では誰でも最後は独りで過ごす時間が長くなるという当たり前の現実が出現しているだけかもしれません。1990年には23%だった一人世帯が、2005年には32%にもなっており、おそらく2015年の現在では35%には達しているでしょう。今年は国勢調査の年ですので、その結果が気になるところです。このように極めて「個人化」が進んだ社会では、コミュニティで何か行動しようということ自体がなかなか難しくなります。たとえば日常的に車に乗る人と乗らない人とでは、道路環境やネットワークに対する関心も違うでしょうし、安全や安心に対する認識もかなり差があると思います。子育て中の方とそうでない方とでは、子供の安全に対する意識も相当程度違うでしょうし、そのような中で合意を形成するのは結構大変です。先の大阪都構想での住民投票では「コミュニティの分断につながる」という表現が登場しましたが、地域問題が多様な関係者の集団からなる場合、大きな軋轢につながることもあるようです。かくしてコミュニティという本来的には地域に根差した人と人との「つながり」関係もまた、変質しているといわれています。
コミュニティという言葉は実にいろいろな使われ方をしています。マッキーバーの共同体の概念に限定することもありませんが、ネットコミュニティのような「本当に共同体?」と思えるようなものまで使われるわけですから、コミュニティもいささか安っぽくなった感もあります。いずれにせよコミュニティは定義がしづらく、また存在自体の確認が難しく、さらに防災などのテーマではその効果の確認も難しい、まったくもって「魔物」のような存在です。それでも社会にはコミュニティは厳然と存在しますし、その働きなくして地域問題の解決は望めません。各省庁もコミュニティを前面に押し出したさまざまな報告書や政策提言を公開しています。たとえば、
「コミュニティ機能再生とソーシャル・キャピタルに関する研究調査報告書」(内閣府)2005
「新しいコミュニティのあり方に関する研究会報告書」 総務省(新しいコミュニティのあり方に関する研究会:座長:名和田是彦)2009
「災害対応能力の維持向上のための地域コミュニティのあり方に関する検討会報告書」(消防庁国民保護・防災部 防災課)2009
「魅力あるコミュニティづくりのヒント-東京電力福島第一原子力発電所事故による長期避難者等の生活拠点形成に向けて-」復興庁・福島県(コミュニティ研究会)2014
「大都市圏におけるコミュニティの再生・創出に関する調査報告書」国土交通省 2014
などがあります。
東日本大震災後、コミュニティという語もずいぶん多様に使われています。しかしそこにはとりあえずコミュニティと言っておけば、いろいろな絆が再認識されるだろうというような安易な思惑が見え隠れしているようにも思われます。従来型のコミュニティだけではなく、あらゆる繋がりを効果的に災害対応に活かしてゆく、その大きな防災の枠組みの方法論を私たちはまだきちんと構築できていません。できることなら近い将来発生が危惧されている南海トラフの大地震や、首都直下地震が起きる前に、コミュニティの科学的な評価と防災における改善手法の提案ができるように頑張りたいと思うところです。