川崎市で発生した簡易宿泊所の火災では、これまで9名の方々が亡くなったと伝えられています。同様の施設は日本の大都市の片隅に必ずあって、そこには同じようにその日の生活がやっとという人たちが暮らしています。特に厳しいのが高齢の方々で、人生の終着駅として簡易宿泊所で最期を迎えることも珍しくなくなりました。それまでの人生の中では恵まれた時期もあった方も多いのかもしれませんが、最後がここではあまりに悲惨です。
日本の住宅に関しては、欧米からは「兎小屋」などと揶揄されたようですが、狭くても一国一城を夢見て、自分の家を建てることが人生の大きな目標にされてきた時代もありました。しかしいまはそれも過去のことになりつつあるようです。いつかは一戸建てをと思っても、そのためにかかる費用を思えば、無理をせず賃貸で一生暮らし、その分人生をもっと別のもので楽しみたいという人も少なくないようです。かえって不動産を持ってしまうとお荷物になってしまい、処分もできないという社会的背景もあります。また少子化の影響で家を継ぐ世代が少なくなってしまい、処分できない空き家もまた急速に増え、さまざまな地域問題を引き起こしつつあります。
そこで空き家を有効管理したり、さらに除却などの措置を自治体が行いやすくするための法律「空家対策の推進に関する特別措置法」(平成26年法律第127号)がいよいよ明日施行されます。この法律によれば対策がとられる空家を「特定空家等」とよび、その要件として、
・そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
・著しく衛生上有害となるおそれのある状態
・適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
などが挙げられていて、これに該当する場合には当該空き家の所在する市町村が立ち入り調査をしたり、所有者に適切な管理を促したり、どうしようもない場合には除却等の強制執行もおこなえるようになっているようです。空き家がどこにあって、それが地域にどう受け止められているかなどがわかるデータベースの整備も進められることになっています。
すでに世帯数を大きく上回る数の住宅が存在し、それが空き家で朽ちていくのを指をくわえているこの国では、もっとその有効利用を考えるべきでしょう。簡易宿泊所で厳しい最期を迎えなければならないこの国の現実の改善に、空き家などをうまく使えないか、いまこそ知恵を絞るときに思えます。
つぼつぼのprofile
国立研究開発法人 防災科学技術研究所
防災情報研究部門
所在地
茨城県つくば市天王台3-1