前稿で都市部のコミュニティでは人付き合いが減少し、とりわけマンションなど共同住宅居住者は戸建て居住者と比べて近隣関係に疎く、これが災害などいざといいうときの共助の足を引っ張るのではないかという話を書きました。確かに煩わしい人間関係から解放されたいと思ってマンションを選択する人も少なくないと思います。私自身もマンション居住者ですが、わずか壁一枚隔てただけに過ぎなくても、他者との関係は戸建て以上に離れている印象はぬぐえません。
一方で災害の経験は近隣関係にどのような影響を与えているのでしょうか。総務省のアンケート調査では、対象者に仙台や神戸の住民が含まれています。お年寄りや障がい者など、いわゆる災害弱者に対する支援活動への参加度を聞いた設問では、仙台や神戸の近年大災害の被災経験のあるところは経験者が多いことが報告されています。まちづくり活動や環境美化活動など、自分たちの住むところをより良くしようという取り組みについても、神戸や仙台の居住者のほうが高くなっています。やはり目の前の危機に対しては、取り組まざるを得ないし、それをきっかけにして地域の在り方を考え直したという経験は大切なものとなっているのではないかと思われます。
興味深いのはスポーツや文化など、個人の趣味や生き方の満足度に関わるような活動に関しては、地域による違いや、居住形態(戸建て、マンションなど)の違いはそれほど明瞭ではないという点です。つまり平時における地域固有のネットワークは、都市部においてもどこでも普遍的に存在しているし、その活動には目立った地域差がないのではないかと思われることです。この関係性が災害対応など有事においても生かされるような仕掛けが必要です。
昔は「入って当然」だった町内会・自治会については東京首都圏ではマンション居住者の割合が目立って低い傾向にあります。マンション管理費は「管理のための費用」であって、近隣コミュニティとの関係を維持したり改善したりする費用ではないのですが、町内会費は「自分たちのための費用負担」とは理解されていないのかもしれません。防災ラジオドラマでも町内会費を負担していない住民が災害時に避難所にやってきて手伝いもせず物資だけをもらっていくことで生じるトラブルなどがしばしば議論されます。緩やかであってもいざというときには固く結びつく良い関係というのは、今の時代なかなか難しいのかもしれません。