東京消防庁はホームページで「救急搬送データから見る日常生活の事故」を公表して、私たちの普段の生活の中に潜んでいる思いがけない危険の存在を啓発しています。この資料は平成25年に東京消防庁が対応した救急搬送約12万件のデータを整理分析したもので、運動競技中の事故、自然災害、水難、労働災害、一般負傷すべてを含んだものです。この正月も全国各地でさまざまな事故の報道がなされており、マンションでの児童の転落事故や冬山での遭難、餅をのどに詰まらせるなど、社会の変化に応じて救急出動も徐々に大変な時代になってきていることが感じられます。今日はこの資料の中でいくつか気になるポイントを取り上げてみたいと思います。
まず児童の転落事故です。高層住宅の増加に伴い、自宅のベランダや階段、窓から転落する乳幼児の数が増えています。平成25年は26人が救急搬送され、うち2名が重篤、7名が重症、12名が中等症という状況です。患者の状態は救急搬送時の初診時判断ですので、最終的にどうなったかまではわかりませんが、高層からの落下は重大な命の危険に直結するものですので、乳幼児のいる家庭では普段から用心して対策を講じておくことが大切です。ベランダや窓際はよく片付けておき、子供が這い登って転落に繋がることのないような、措置が必要です。
次に注目されるのは高齢者の転倒事故です。実は12万件の救急搬送のうち65歳以上の高齢者は約6万2千人にのぼり、半数を超える状況にあります。事故の種類がわかっている5万4千件についてみてみると、その8割強が転倒による事故なのです。高齢者が転ぶことによっていかに危険な状況になるかがわかります。市街地ではバリアフリーをうたって段差の解消やエレベータの整備を進めていますが、身近な生活空間である自宅の中ではわずかな段差で簡単に転んでしまう現実があります。市街地でもエスカレーターは転倒事故の危険性が高いところで、平成25年だけで1,380人もがエスカレーター関連の転倒事故で救急搬送され、これは過去3か年で最も高い値となっています。杖や買い物カートなど、高齢者が普段に持ち歩いているものや長いスカートなどの着衣がエスカレーターに絡まないよう、周りでも気を配っておく必要があります。
冬場に多いものとして、雑煮などの餅が喉(のど)に詰まる事故がありますね。餅が詰まることによる「窒息」での救急搬送は高齢者で102件あり、第3位になっています。そのほかの食物やおかゆ類による事故もかなりありますので、餅ばかりに気を付けているのはかえって危険かもしれません。意外に多いのは高齢者が浴槽でおぼれる事故(溺水)で、平成25年は561件が救急搬送されています。入浴中はかならず誰かが見守るか、単独での入浴を避けるようにすることも心がけねばなりません。また冬場には浴室と他の部屋との温度差からくるヒートショックも無視できません。心臓発作による危険を避けるためにも、部屋の温度差は小さくし、着替えなどで寒い状況に陥らないよう、配慮が必要です。
このほか、私たちが普段何気なく行っている行動に伴ってどのような事故が起きるか、日常生活に潜む様々な危険をこの資料はたくさん示してくれていますので、関心のある方はぜひお目通しください。
つぼつぼのprofile
国立研究開発法人 防災科学技術研究所
防災情報研究部門
所在地
茨城県つくば市天王台3-1