九州電力の川内原発の稼働を巡ってさまざまな意見の対立が生じています。原発を稼働させるためにはそこが「安全」であると言い切ったほうが安心できるのでしょうが、科学的には絶対安全というものは存在せず、火山噴火予知連も安全だと言い切れないからこそ、ここは譲れなくなっているのでしょう。あらゆるものにリスクがあり、それを認めないで決断をすることは先の東日本大震災の反省と教訓を全く無視することになるのではないかと不安を禁じえません。稼働させるにしても危険とわかって稼働させる、政治的決断にはその「覚悟」が必要です。科学的判断をいろいろな理由をつけてねじ曲げてしまうのでは科学の本質的役割を損ねてしまいます。
堤防一つ作る際にも、これができたら「どう安全になるのか」という説明をするならば、必ず「○○年に1回の洪水から街を守れます」というような言い方になってしまいます。そこには守れる範囲と守れないかもしれない範囲がともに表現されていて、しかもそれは確率というような私たちには普段なじみのない尺度で説明せざるを得なくなっているのです。社会は常に白か黒か、明確に分けたがっています。原発にせよ堤防にせよ、それは安全なのか、危険なのか、どっちかにしろと言われても科学的には安全と危険との間の状態にあって、未来永劫変わらないとか、必ず安全だということが言い切れないのですから、それをもって科学は役にたたないなどといわれなき非難を受けないようにしたいものです。科学的判断と政治的決断との間には深くて大きな溝が存在しているのです。
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防災情報研究部門
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茨城県つくば市天王台3-1