広島の土砂災害から一か月が経ちましたが、地形災害の常として復旧にまだまだ時間がかかるという被災地は厳しい現実に直面しています。家が建っている土地そのものが崩壊してしまったところや、今後崩壊の危険が高くなったところでは、そのまま住み続けるわけにもいきませんし、これ以上の崩壊を防ぐための土石流対策工事は、規模が大きくなればなるほど時間がかかります。台風や秋雨前線でまだ雨の多い時期が続きますので、当面は警戒を緩めるわけにはいきません。
今回の災害を受けて広島県は被災地を中心(八木、緑井地区)とした土砂災害の警戒区域を新たに指定し、その図をネットで公開しています。それを見ると災害が起きる前にこの指定地区でもっと土砂災害に関するリスクコミュニケーションが図られるすべはなかったのかと、どうしても思ってしまいます。それと同時に、土砂災害のハザードマップがもつ宿命として、実際に起きる現象と予想域とのずれを意識させられるのも事実です。
報道が集中していた安佐南区八木3丁目の県営緑ヶ丘住宅の周りも、土石流の警戒箇所が描かれていますが、実際に発生した土石流とは位置や範囲がぴったり合っているわけではありません。予想域は現実よりも広く取られていますし、場所によっては崩壊する場所が複数考えられるので、警戒区域の図も複数存在するという現実があります。ざっと見たところ、予想域を大きく逸脱するような事態はなかったように思いますが、ハザードとしての土砂災害にはこのような不確実さが伴うものだということを十分理解しておかないと、ほとぼりが冷めたらまた危ないところに住みかねないというリスクを抑えられないかもしれません。
ハザードと脆弱性を掛け合わせたものがリスクです。脆弱性のほうはリスクにさらされているものが本来持っている固有の性質(ポテンシャル)ですので、不確実さはあまり大きくないのが普通ですが、ハザードのほうにはかなりの幅があります。予想されている大地震や、大噴火なども、発生そのものにかなりの不確実がある、それでもそれに備えて対策をしておくということを、きちんと理解しておかねばならないということでもあります。