ハリケーンカトリーナが米国南部を襲ったとき、最も甚大な被害を受けたのはニューオーリンズの東部、低地に済んでいる比較的低所得の人たちの地区でした。災害は地理的にどこでも均等に襲うわけではなく、豊かな人たちは相対的に安全な場所に住み、貧しい人たちは相対的に危険な場所に住まざるを得なくなる、この状況は万国共通の現実のようです。日本でも阪神淡路大震災では神戸や芦屋の高級住宅地も確かに被災はしましたが、被害が大きかったのは阪神電鉄より南側の地区で、住宅が密集し一戸当たりの床面積も小さい地域に倒壊や火災が集中しました。防災対策というのは建物の耐震化も大事かもしれませんが、つまるところ貧困対策に勝るものはないと思わされたものでした。
国民生活基礎調査でも貧困の度合いがどう変化しているのか、毎回の調査で話題になります。社会学的な貧困の定義は「等価可処分所得の中央値の半分以下の世帯の割合」で定義される相対的貧困率が指標になっています。何やら難しい定義ですが、世帯の手取り収入を家族人数によって換算し、その順位が真ん中の世帯のさらに半分の収入以下しかない世帯の割合を目安にしています。調査が始まった昭和60年では相対的貧困率は12.0%でした。その後調査のたびにこの貧困率は徐々に上がり始め、最新の平成25年では16.1%になっています。世帯収入にのみ依存して決まってしまう貧困率ですので、高齢者で年金暮らしの人の割合が増えれば世帯収入の低い人が増えてしまい、たとえ資産があっても貧困率は当然高くなってしまいます。これだけが社会の不平等さを増加を端的に表している指標だとばかりは言えませんが、この調査では子供のいる現役世代の貧困率も出しており、それによれば昭和61年が10.3%だった貧困率が、平成25年では15.1%に上がっています。やはり経済格差は少しずつ拡がっているように思われます。
世帯の種類 | 昭和60年 貧困率(%) | 平成25年 貧困率(%) | |
全世帯 | 12.0 | 16.1 | |
子どもがいる現役世代 | 10.3 | 15.1 | |
うち大人が一人 | 54.5 | 54.6 | |
うち大人が二人以上 | 9.6 | 12.4 |
注目すべきは子供がいる現役世代でも、大人が一人の世帯における貧困率は50%を超えており、母子家庭、父子家庭での貧困の度合いが高いことがわかります。これは大人が一人の世帯での就業状態とも深くかかわる問題です。
これに呼応するように、生活意識についての調査では生活が苦しい(「大変苦しい」または「やや苦しい」を合わせたもの)と答えた人の割合が60%近くに達しており、調査のたびに上がっているのが気になります。特に母子世帯では約85%の世帯が苦しいと答えているので、これからの社会を担う子育てをしなければならない世帯へのさらなる支援が必要なのかもしれません。私自身は長い目で見た人材育成の観点からも高等教育の完全無償化くらいは今の日本では当然だと思いますが、いまだにいろいろな意見があるようです。
一方で高齢者世帯はどうかというと、生活が苦しいと答える割合は全世帯平均よりも若干低くなっています。高齢者も実は2分化してきていて、豊かな高齢者とそうでない高齢者とでずいぶん違いがあるようなのですが、こちらはまた稿を改めて整理してみたいと思います。