長野県南木曽町で発生した台風第8号に伴う前線性豪雨で生じた土砂災害では、一家4人が巻き込まれ中学生一人が亡くなるという残念な事態になりました。この災害では土砂災害警戒情報が出されたのが土石流発生の35分後だったことや、町の避難勧告が出されたのも災害発生の10分後で、行政からの避難情報に依存していただけでは危険から逃れられないことが際立ちました。土砂災害警戒情報は気象庁の定義によれば、「大雨警報(土砂災害)が発表されている状況で、土砂災害発生の危険度が非常に高まったときに、市町村長が避難勧告等の災害応急対応を適時適切に行えるよう、また、住民の自主避難の判断の参考となるよう、対象となる市町村を特定して都道府県と気象庁が共同で発表する防災情報。」となっています。まさに気象の専門家と行政の担当者とが災害リスクについて一定の共通認識と了解をもって決断し発表するもので、市民が自分のリスク回避行動をこれに依存するのは、ある意味で当然なことと言えるでしょう。
では、この土砂災害警戒情報はどれくらいの信頼性、精度があるものなのでしょうか。気象庁では土砂災害警戒情報が運用開始された平成20年から23年までの都合4年間における「成績」をまとめて公開しています。まず土砂災害警戒情報の発表回数は年々の変動はありますが、年平均1064回となっていて、意外に頻度の高い防災情報になっています。そして土砂災害警戒情報を発表したときに、人および住宅に被害があった土石流またはがけ崩れ等が発生した割合、これを「災害発生率」と呼んでいますが、これはこの4年間の平均で約4%となっています。(残り96%は土砂災害警戒情報が出されたにもかかわらず被害はなかったことを意味しています。)一方で、土砂災害警戒情報の発表がなかったにもかかわらず(ここが大事です)災害が発生した割合、これを「見逃し率」と呼んでいますが、こちらのほうは4年間の平均で約25%にも上ります。これを見て土砂災害警戒情報は果たして役に立っているのだろうかと疑問に思われる方も少なくないでしょう。
公表されている資料には土砂災害警戒情報が出されたタイミングと、災害が発生したタイミングとのグラフが示されていて、これはなかなか興味深い情報を与えているのですが、要点をかいつまんで言うと、
① 土砂災害警戒情報が出される前に3割の災害が発生している。
② 土砂災害警戒情報が発表されてから1時間以内に、5割の災害が発生している。
③ 土砂災害警戒情報発表から3~4時間後までに8割の災害が起きている
という特徴があります。避難勧告がこの土砂災害警戒情報だけを頼りにしていたのでは、実は手遅れになってしまうことが少なくないことを意味しています。よって行政は土砂災害警戒情報だけではなく、地域の実情に応じてより適切な避難のタイミングを模索しなければなりません。
もちろん土砂災害警戒情報それ自体の精度を高めることも必要でしょう。しかしそれにはまだまだ時間がかかります。明日にも起きるかもしれない土砂災害によって損なわれる命をなくすためには、「たとえ空振りになったとしても避難してよかった」という行動をもっととれるような施策が必要だということでもありますね。