平成時代に入ってからの社会の大きな変化についてはいろいろな見解があるでしょうが、少子高齢化がいよいよ身近なものになったというところは言を俟たないでしょう。家の周りにさまざまな福祉施設や福祉関連事業所が林立するようになり、いよいよ他人ごとではないという印象を強くしている方も多いのではないでしょうか。
現在の日本の人口は約1億2700万人ですが、そのうち65歳以上の高齢者はおよそ3000万人(約24%)になります。そのほぼ半数は75歳以上の後期高齢者になるわけですが、それは14歳未満の年少人口(1670万人)とほとんど変わらないのですから、子供も少なくなったものです。さらにいろいろな事情から戸外で遊ぶ子供が少なくなっている社会背景も考えると、街中は高齢者のたまり場のようになっているところも多いと思います。働き盛りの大人や就学児童がそれぞれ職場や学校にいる昼間の市街地は、今こそ高齢者のために設計し直さなければならないのかもしれません。
学校のほうはいま文部科学省の指導でどんどん耐震化が進められています。学校自体が災害時の避難所に指定されているところが多いのでこれは当然な流れですが、一方で福祉施設のほうはどうでしょう。一口に福祉施設といってもいろいろなものがあります。いわゆる高齢者関連施設だけではなく、児童福祉法に基づく児童福祉施設(助産施設、乳児院、保育所、児童養護施設など)、身体・精神など障害者関係施設も入ってきます。また当事者が入所したり利用したりする施設だけではなく、そこに係るスタッフがいる施設(地域活動支援センターや福祉センターなど)も含まれてきます。施設に共通しているのはいずれも災害弱者と呼ばれる人たちがいたり、関わったりする施設であるために、災害時に機能が喪失したり低下したりすることは極めて望ましくないということです。厚生労働省は平成24年に社会福祉移設の耐震化状況を調査し、その結果を昨年9月に公表しています。それを見ると地域や施設の種類によって差がありますが、全体としての耐震化率は84.3%(16万4542棟のうち、13万8636棟は耐震化済ということでした。2年前と比較して3%向上したということです。これが早く100%になるよう頑張らないといけません。災害は待ってはくれません。
自然災害リスクを考える場合、建物自体の性能もさることながら、施設周辺環境がとても重要になります。特にここ数年発生している大雨による水害では、福祉施設の浸水被害と人的被害が相次いでいます。総務省消防庁からは平成11年に「災害弱者関連施設に係る総合的な土砂災害対策の実施について」と題される通知が都道府県知事に対してなされています。しかし九州北部、中国、近畿地方等でここ数年起きている水害では、次々と高齢者施設に土砂災害が発生しました。立地場所が危ないと前々から警告されていても、災害発生時に上手く対応できない現実は、健常者とは違う避難の難しさなどを浮き彫りにしています。このような時こそ、施設近隣の市民と連携する仕組みづくりが急務となります。
このような超高齢化社会に向かう日本を支えるべく2000年に施行された介護保険制度はここまでの14年間でどのように私たちの社会に貢献したでしょうか。折しも今日、地域医療・介護総合確保推進法案(略称)が参議院で可決され、また福祉に係るさまざまな制度に修正が行われました。実質的な影響が出てくるのは来年からですが、高齢者や障害者の生活にどのような影響が及ぶか、関心を持ってみていかなければなりません。