過去に学べとはよく言われることですが、これほどの高度情報社会になってもなおかつて起きたことから学ぶことは容易ではないようです。最近起きた災害や事故についても、同様のものが過去にたくさん起きていた事実から、我々はもっと謙虚に学ぶべきではないかとあらためて思うこの頃です。
例えば4月16日に韓国で発生したフェリーの転覆事故ですが、かつて日本でも航路が重要な手段だったころには船舶関連事故(いわゆる海難事故)がたくさん起きていました。私が生まれた昭和30年(1955年)5月には宇高連絡船紫雲丸が貨車運航船宇高丸と衝突して沈没し、修学旅行中の広島の小学校児童を中心に168名もの死者を出しています。この船(紫雲丸)は就航以来9年間で5回もの事故を起こしており、なんとも運の悪いというか、問題の多い船だったようです(尤もこの事故の後は引き上げられ、その後10年は無事に航行したという話もあるようです)。長距離航路における事故ではタイタニック(死者1500名以上)が有名ですが、アジア諸国ではフェリーに絡む事故も多く、そのため多数の犠牲者が出る事故が今でもかなり起きています。1987年に発生したフィリピンのドニャ・パス号の接触沈没事故では4300名を超える死者が出たという話もあります。この船がかつて日本で作られた船体を改造して運行されていたものだという話を聞くと、どこかで聞いたようなケースは昔からあったわけですね。
輸送系に関係する事故では2年前に起きた中央自動車道の笹子トンネル天井版落下事故(死者9名)が強烈な記憶に残っていますが、さかのぼること33年前、1979年7月には東名高速道路の日本坂トンネルで多重衝突事故による火災が発生し7名の死者を出していますし、高速道路ではありませんが北海道後志にある豊浜トンネルでは1996年2月に岩盤崩落事故が起き、路線バスと乗用車1台が閉じ込められ20名が亡くなっています。このときトンネルを爆破救出する様子は映像で中継され、多くの方々がその成り行きを固唾をのんで見守っていたのを思い出します。これらの悲惨な事故を機に日本各地のトンネルで安全点検が行われましたが、今後メンテナンス不足でインフラの老朽化が進むと事故の危険性が高まることも懸念されます。新しいものを作るのも結構ですが、いまあるものをきちんと維持していくためのコストの問題もないがしろにできません。航空機や鉄道事故も70年代までは実に多く発生していて、それらの経緯を見ていると今日の安全輸送は実に多くの犠牲の上に築かれたものだということがわかります。
すでに3年の時間が経過した東日本大震災ですが、このような災害でも過去の教訓を未来に生かすことは容易ではありません。過ぎた時間の長さに比例して記憶が薄れてしまうのでは、また同じ事態を招きかねません。今こそ長く記憶にとどめるための知恵をみんなで出し合うべき時だと思います。