NHKラジオ第2から1日3回、気象通報というものが流されていました。「いました」というのは、この通報は現在1日1回に減らされた(2014年4月より)からで、かつて「木浦(モッポ)では北の風風力3・・」とかいうのを聞きながら天気図を描く学生時代を過ごした私たちの世代にとっては懐かしいものですけれども、携帯端末等で天気図がたちどころに配信されるようになった現代では、ほとんど知られていないものかもしれません。ラジオのメリットはテレビ電波が届かないような地域でも受信が可能だったからですが、もはやネットの威力にこれも押されてしまったということでしょうか。天気図が一番必要とされていたのは、やはり山や海など自然との接触の多い現場であったと思います。ですから、年季の入った登山者には天気図が自分で描けなくてどうするという気骨のある方もまだいるかもしれません。その方々には気象情報の配信回数が減るのは少し寂しいかもしれませんね。
ところで、このような気象情報は手軽に入手できるようになったにもかかわらず、山岳事故は減る気配が見えません。警察庁の統計によれば、平成24年の山岳事故の発生件数は1988件、遭難者は2465人と、統計の残る昭和36年以降で最も高い数字!になっています。過去10年間の傾向をグラフにしたものも公開されていますが、年々増加している傾向がはっきり出ています。都道府県別にみるとやはり山の多い長野県がトップで254件、次いで北海道155件、富山県107件となっています。47都道府県で1件もないのは香川県だけで、高い山などない私が住む千葉県でも山岳遭難は1件あるのですね。平成24年中の死者は249名で、行方不明者は35名に上ります。事故にあった時の状況としては登山が最も多く71.2%、次いで山菜取り16.3%となっています。
最近発生した登山中の大きな事故として、2009年7月に北海道で発生したトムラウシ山の遭難事故があります。これは大雪山系のトムラウシ山(標高2141メートル)を登山した18名(ガイド(男性)3名、男性客5名、女性客10名)からなるパーティのうち8名が死亡するという惨事でした。(このときは別のツアーや単独故山者などもなくなっていますので、一連の天候不順に伴う事故としては10名の命が失われたことになっているようです。)亡くなられたほとんどの方々が低体温症によるもので、雨で濡れたことと強風による寒さが疲れた身体に大きく響いたようです。18名のパーティのうち14名が60代の方(最高齢は69歳)でした。
公表されている調査報告書(日本山岳ガイド協会)などによると、この事故の大きな原因は登山に際して気象状況をきちんと把握し、適切に対処できなかったことにあり、それはガイドの責任も大きいとなっていますが、登山経験がそれなりにある人でも亡くなっていることからして、無理をしても大丈夫という過信はどのような人にも起きうることだと、いまさらながらに思います。登山ガイドのリーダーの一人(この人も亡くなっています)が途中で「自分たちの仕事は山に登ることではなく、皆さんを無事に山から下ろすことだ」といったにもかかわらず、結局は引くことができなかった現実は、判断の難しさを示しているように思います。