リスクをテーマにして研究している人たちは、おおむねリスクのコミュニケーションの重要性を盛んに主張することが多いのですが、現実社会ではなかなか容易なことではありません。その最大の理由はリスクに不確実さ、あいまいさが必ず付きまとうからです。私たちが選択行動をしなければならないあらゆるものには、それが正解である場合もあれば不正解である場合もあり、どれほど確実と見込まれるものでも、予見不可能な因子が存在していることは否定できませんので、はずれを引く可能性を必ず認識したうえで、決断しているのが現実です。それでも私たちは決断することを止められませんし、さもなければ社会は何も回らなくなってしまうでしょう。
昔は天気予報は当たらないものの代名詞だったようで、戦争中に気象台(最近こういう言い方を知らない若い人が増えているようです)と唱えると敵の弾にあたらずに済むというような迷信もあったそうです。幸いなことに気象技術の進歩は急速に進み、私たちは自分たちの未来の行動の一部を、気象予報にゆだねていることも少なくありません。短期的なものでは週刊天気予報などが一番身近な例で、今まさにゴールデンウィークの真っ最中でもありますが、この期間の天気の動向は社会的に高い関心を持たれていることは想像に難くないと思います。その週間天気予報にも実は不確実さが含まれていますが、気象庁がきちんと「不確実さを段階で示している」ことはあまり知られていません。
気象庁のホームページ(こちら)で週間天気を見ると、主な観測地点ごとに天気や気温、降水確率が示されていますが、よく見ると3日先からは各日の下にA、B、Cの記号が添付されています。気象庁はこれを「信頼度」と呼んでいて、解説には「3日目以降の降水の有無の予報について「予報が適中しやすい」ことと「予報が変わりにくい」ことを表す情報で、予報の確度が高い順にA、B、Cの3段階で表します。」と注釈しています。これはアンサンブル予報という、幅を持った予測手法に基づく信頼度の評価を反映したものですが、3日から先になると予測にはある程度の不確実さがあるけれども、それをきちんと理解したうえで利用してほしいという意思が示されています。このようにリスクにかかわる「あいまいさ」は、それを踏まえたうえでコミュニケーションすることが徐々に社会に浸透し流通し始めています。
私たちは時として確実さを求めるあまり、他人に対して厳しいふるまいをしがちになります。これは日本人に限ったことではないのかもしれませんが、あいまいさはあっても、それを踏まえて利用することの大切さを私たちはもっと積極的に意識して理解していかなければならない時期に来ているように思います。