韓国で起きた客船の転覆事故はいまだに多数の行方不明者がいて、関係者のことを思うと心が痛みます。素人考えでは船を浮かせることがどれほど難しいのかよくわからないのですが、水深がさほどでなくても、流れが急な海域のように伝えられていますので、救助は思うほど容易ではないのでしょう。この事件では座礁時に行われた艦内放送で、その場で動かないようにと伝えたことが被害を大きくした原因の一つとして問題になっています。私たちも公共交通機関を利用するときに、何らかの事情でそれが停止して状況がわからない時に、運行側からアナウンスがあればそれに従うのは当たり前になっていますが、よく考えてみると災害時に動くべきか留まるべきかというのは、なかなか判断が難しいテーマです。
先日発生した伊豆大島の土砂災害で、住民の方々はどうして避難しなかった(あるいは避難できなかった)のかという問題を考えるうえで、あの大雨の時にどのような情報を得ていたかというのが極めて大事なので、災害当日のメディアの報道内容を確認するため、国立情報学研究所のテレビアーカイブシステムを使わせていただきました。10月15日から16日にかけてのNHK総合の放送を中心にチェックしたのですが、改めて観てみると「土砂災害への警戒」や「災害弱者は早めに避難するほうがよい」ことはずいぶん前から呼びかけられていることがわかりました。おそらく多くの方々はよく聞こえない防災無線よりも、テレビからの情報に依存していたと思われますので、その点では行政の発表も、メディアの対応も一面では適切だったようには思います。ただ、大島町だけはこれらの警戒情報に沿って避難勧告や避難指示を出さなかったという問題が残されてはいますが。
一方で気象情報とそれによる防災対応のガイダンスはなかなか複雑で、今回の災害時でも不要不急の外出は控えできるだけ屋内にいることが望ましいと伝えられていますし、気象庁や役場の担当者は知っていたかもしれませんが、これから猛烈な降水がやってくる可能性があることは、あまり強調されて伝えられていません。むしろ強風や竜巻など、外に出ると危険な状況になる災害のほうが強調されがちで、大島町の被災地のような土砂崩れの危険性はあまり目立って報道されているという印象は持てませんでした。また、台風のコースからして過去に起きた類似の台風が示されてはいますが、それによって引き起こされた災害についてはあまり具体的に紹介されていませんし、さらには全国の市町村で避難勧告や避難指示が次々と発表されていく状況も、わかりやすく伝えられていたとは言えないように思います。周りのふるまいを見て自分の行動を決めるという点からすれば、隣の神津島や三宅島でどういう行動が起きているかを知っていたら、もしかすると救えた命があったかもしれません。
災害を振り返ってもっとも大事だと思うのは、単純ですが早めに避難することで、それは「災害を起こす現象が強まったから避難する」のではなく、「災害を起こすかもしれない現象が起きる前に、安全なうちに避難する」のだということ、そしてそのような安全行動が、決して難儀ではないという環境を整えることに尽きるのではないかと思います。