消費税が8%に引き上げられましたが、今回の引き上げはあくまで一時的なもので、最終的にはさらに10%にまでアップすることが予定されています。ここで予定されていますというのは、消費税を引き上げることを前提に、私たちの社会の未来図が描かれているのが現状で、状況によっては引き上げられない可能性も排除できませんが、引き上げないと社会が立ち行かなくなる可能性が高いことを意味しています。その時には別の途を探らねばならないかもしれませんし、何らかの幸運で消費税を上げなくても済む社会が到来するかもしれませんが、どうも後者のほうはあまり期待できそうにありませんね。
さて消費税の引き上げ分は何に使われるかというと、いわゆる社会保障4経費、すなわち年金、医療、介護、少子化対策に充てられることがすでに定められています。いわゆる目的税化というわけです。税については納めることも大事ですが、何に使われているか、そして適正に使われているかについて私たちも十分な関心を持って行く必要があります。
医療や介護など、かなり個人差のある費用について、私たち国民がどこまで公平に負担すべきかという点については議論が尽きないところでしょう。最近よく言われるように、予防医療や健康維持にコストをかけたほうが、いざ病気になった時の医療行為そのものにコストをかけるよりも安上がりという話もありますが、実際問題として努力して健康を維持している人も、それを怠って(場合によっては放棄して)不健康な生活に甘んじている人も、同じ保険料というのであればなんとなく釈然としないのは尤もな気がします。
そこで、リスクを減らすために努力をした人にはそれなりのご褒美を与えるという考えが導入されているものがあり、経済ではそれらを総称してインセンティブがあるという見方をします。努力のための動機付けがなされているというわけです。これは個人に限らず、人の集団としての地域(社会、コミュニティ)や企業(法人組織)においても、安全上優良な客観的評価ができれば、そのメリットをいろいろな形で受けるという制度がいろいろ導入されています。
先に制度化された「地区防災計画」ですが、住民主体で地域の安全を自分たちで考え、行動するということが、単に掛け声だけで終わらないためには、何らかのインセンティブを与えるというのも選択肢としてはありではないかと私は思います。以前、新潟県中越沖地震に際して、柏崎市のさまざまなコミュニティの方々にお世話になりましたが、その際大変印象的だったことは、この地域の方々が自分たちの地域に対するガバナンス意識が非常に高く、地域をよくするために大変熱心であるということでした。もちろん柏崎市も人口減少や高齢化、若年層の流出による市民活動の不活発化など、さまざまな地域課題を抱えていますが、努力すれば地域は変えられるという意識を持ち続けて日々工夫、改善を欠かさないようにしている方々がいることは、この地域こそ何かメリットを与えてあげたいという思いを禁じえませんでした。
過剰なインセンティブは軋轢や不毛な競争を生むという指摘もありますが、防災においてさまざまな地域差があるのも事実ですし、画一的な防災対策では限界があることも指摘されているからこそ生まれた地区防災計画の提案なのですから、これからは防災で頑張ったところにもっとご褒美が行くような、そしてそれは単に防災にとどまらず、地域の安全安心の向上に資するものであれば何でもよいというような、広い視点も必要になりそうに思います。
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