昨年10月に発生した台風26号に伴う豪雨は、伊豆大島(東京都大島町)に甚大な被害をもたらし、今もなお行方不明者が残されています。災害の後、町の災害対応についていろいろな批判がなされましたが、いったいどのタイミングで何をすればよかったのかについては、今の防災技術ではまだ明確に答えられないこともたくさんあることも事実です。ただ、災害の経過についてみれば、行動を起こすための選択肢はいくつもあったし、その機会も少なくなかったことは確かなので、これを教訓にして今後はより適切な意思決定を目指すことが大切です。
先ごろ、内閣府は「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」の改訂版を公表しました。情報化社会の進展により、防災に関しても以前とは比べようもないほど多様な情報が流通しており、これらをどう活用すれば命を救うことになるのか、とても重要な視点になっています。今回の土砂災害についても、最初に気象関係の注意報、警報が出されたときや、土砂災害警戒情報が出されたときなどの、予報警報等に依存するだけではなく、隣接する他の自治体でどのような行動をとっていたかというのは大いに参考になるはずです。実際、隣の三宅島では大島町より15分ほど前に、土砂災害警戒情報が出されていましたし、災害発生前の15日19時ころからは、避難勧告を出す市町村が全国に出始めました。16日の0時過ぎには神津島で避難勧告が出されていますし、こういう周りの状況を総合的に判断することで、自分の町にも危険が迫っている、だから行動に移さなければならないと判断することはとても大事なことです。
残念なことにまだ自然現象の予測精度を個々の町のレベルや、地域のレベルにまで高めるには困難なところがあり、それはたとえば先般発生した津波の波高予測の精度が必ずしも高くないことを見ても明らかです。私たちはこの程度の精度しかない技術でも、念のため安全サイドに判断して対応していく心構えが必要ということです。
今回のマニュアル改定では「空振りをおそれず、早めに出すことを基本とする」としていますので、日本の防災のよき慣習として、「安全なうちの余裕を持った避難行動」が定着することを期待したいところです。
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