今冬は太平洋側では南岸低気圧に伴う大雪で、たびたび被害が発生しています。今週も半ばころ再び低気圧が接近するとみられていますので、いまから周到な準備をしておく必要があるでしょう。不要不急の外出はできるだけ控えて、雪による被害をこれ以上生じさせないよう心掛けることが肝心ですね。実際私たちの多くは、危険が目の前に迫らなければ具体的な対処行動を起こさないことはしばしば指摘されていて、興味深いことに私たちのこれまでの調査でも、リスクに対して周到な準備を行うかどうかには世代による差があまりないことがわかっています。人生経験が豊かな高齢者が若者よりも慎重だということはあまり認められないようです。ましてやめったにない災害に対してどこまで準備するかは、いくら口を酸っぱくして説いてもなかなか具体的行動に結びつかないのが現実社会ということでしょうか。
ところで最近いろいろな場面で「それは現実的ではない」という論調の意見をよく耳にするようになりました。「現実社会では」とか、「現実にはね」といういい方には、なかなか反論しがたいものがあります。研究者の多くは理想的なものを求めて研究している人が多いので、例えば緊急地震速報などもそれが伝われば人は皆適切な行動をするということを前提に議論している研究者が非常に多いわけです。その人たちに対して、「それは現実的ではない」という風に指摘するというのは簡単ですが、一方で研究者のやる気をそいでしまいかねません。どのような学問でも、やはり基本としては理想を追求するという姿勢は決して失ってはならないものではないかと、このごろつくづく思えるようになりました。
原発ゼロ?それは現実的ではない、戦争の放棄?それは現実的ではない、というような論調で、現実的なことが一番だ、理想は青臭いという風潮が広まるのは、いかにも私たちが目指す社会をはなから放棄してしまうような感じを持ってしまうので、私は好ましいとは思いません。時代の先が見えない今だからこそ、あるべき理想を明確にして、それに向かって努力する、防災においてもそういう気概を失いたくないものですね。
私たちのプロジェクトの公開シンポジウムが3月7日(金)東京国際フォーラムで開催されます。防災ついていろいろな取り組みで見えてきたものについて、幅広く意見をぶつけ合う催しですので、お時間がある方は是非お運びください。
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国立研究開発法人 防災科学技術研究所
防災情報研究部門
所在地
茨城県つくば市天王台3-1