私たちのプロジェクトチームが中心となって防災科研主催で実施している防災コンテストも今年度で4年目となりました。これまでご参加いただいた、防災に高い関心を持たれている全国の様々な方々に改めて深く感謝申し上げたいと思います。
コンテストは2種類に分けられ、市民自ら防災マップを作るものと、防災をテーマにしたラジオドラマを作るものがあります。このコンテストをスタートした時は、果たしてどれほどの方々が関心を持っていただけるのか不安でしたが(今でもその点は気になっていますが)、昨年度は東日本大震災が発生したこともあり、社会の防災への関心はかつてないほど高いのではないかと思います。にもかかわらず、地域の防災活動は必ずしも盛んになったというわけではありません。
もともとこのコンテストという手段を使ったのは、応募された作品としてのマップやドラマの完成度が問題なのではなく、地域の防災力向上という目的に向けて、さまざまな主体が様々な動機や目的をもって参加できる環境を作りたいという思いがあったからです。その点ではこのコンテストはある種の社会実験でもあります。市民主体による防災活動というと、どうしても自主防災組織や町内会・自治会、あるいは消防団のような組織がコアとなって活動するものをイメージしてしまいます。しかしこのような上から網をかけるような防災だけでは、本当に大災害や深刻な事態が生じたときには制度的にも能力的にも壁にぶち当たってしまうのではないかと思われます。 そこで我々としては主体の多様性がどこまで広がるか、その場合、どのような課題があるのか、また防災活動を通じて誰にでも社会を変えることができるというのはどこまで認識されるのかという点で、コンテスト参加者の集団特性や、出来上がった作品に高い関心を持ってみてきました。
間もなく第4回のコンテストの審査が行われる予定です。今回も全国から寄せられた力作を見させてもらうことは楽しみですが、ここでこれまでの参加団体から見えてきたものを、私なりにちょっと整理してみました。参加してくれた集団(マップもドラマも区別しません)を、①町内会・自治会および地域の自主防災組織、②学校および学校を軸とした地域集団(たとえばPTA、おやじの会など)、③地域における各種団体(職業団体、サークル、NPOなど)に分けてみて、それぞれ以下のようなメリット・デメリットがあるのではないかと思います。
①町内会・自治会および地域の自主防災組織
【メリット】
・地域に根差しており、活動の継続性が高い。(=シナリオの伝承性を高くできる可能性がある)・地縁関係が強く、参加者の結束が固いことが多い。
・地域に存在する多様な人材の力を結集することができる。(一般市民、消防団、現役行政職員、主婦、子供など)
・歴史や風土に立脚した独特の防災観(過去の災害に題材をとったドラマの制作などが可能)がある。(星崎学区連絡協議会など)
・特別な話し合いがなくとも、(阿吽の呼吸で)活動ができる場合がある。ただしこれには欠点もある。(筑波小学区区など)
・行政とうまく付き合っていくノウハウのある人材がいることがあり、大変有効である。(藤沢や柏崎、鶴ヶ島などたくさんの事例がある)
【デメリット】
・地域活動への無関心さから、とりわけ都市部においては参加者が限られており、一部の人たちだけの(ややもすると独善的な)取り組みに陥りがち。(I♥千現など)
・外部の人間が参加しにくい(なかよしの輪に入りにくい)。
・活動がマンネリ化しやすく、新しい目標設定や具体的な展開に持って行きにくい。
・活動の最終ターゲットがどうしても従来型の防災訓練に設定されがち。
・地域の要援護者に関する情報の取り扱いについて、関係者の意見が合わないことがある。
・阿吽の呼吸でできることがあるため、記録の整備や客観性の担保に課題がないわけではない(何がどう議論され、決められたかが後でわからなくなる)ことがある。
②学校および学校を軸とした地域集団(たとえばPTA、おやじの会など)
【メリット】
・守るべき対象(児童優先)が明確で、リスクの評価軸が設定しやすい。特に幼児、障害児など固有のリスクを抱えている対象については、いっそう突っ込んだ議論がしやすい。(つくば特別支援学校など)
・シナリオを検討する場所や時間(開校時間帯=おもに昼間)が限定されているので想像力が働かせやすい。
・上(市町村、県、文部科学省など)からの指示があれば、活動の名目が立ちやすい。
・防災活動を一定の学校行事(ルーチン)に組み込むことができれば、恒例行事化して継続性を担保できる可能性がある(つくば市内の小学校では一部そのような期待もある)。
・学生集団(サークルなど)の場合は、ドラマや脚本の制作技術には優れていることが多い。(ドラマコンテストに参加したさまざまな学校集団)
【デメリット】
・平時における地域住民(たとえば自治会など)とのかかわりが希薄なため、参加者が学校関係者に限定されがち。(吾妻小学校をはじめとしてつくば市内の多くの小中学校でこの傾向がみられる)
・教職員が人事異動のため短期間で変わってしまい、継続性に難がある。
・学校の開校時間帯以外の展開が難しい。
・個人情報の保護という観点から、特に児童に関する情報について特段の配慮が求められる。
・平時の職務の関係で教職員にかかる負担が大きく、場合によっては過度の負担(ストレス)に陥りやすい。
・何もなければ、学校は本来教育の場であって、防災の場ではないという意識が根強くあるため、なかなか活動が本格化しなかったり継続しなかったりする。
③地域における各種団体(職業団体、サークル、NPOなど)
【メリット】
・職種が同一の集団では視点の統一が図られるため、課題の設定が明確になる。
・地域に根差したNPO組織が活発なところでは、さまざまな関係主体を同じ土俵に引き出すことができる(レスキューサポート九州(木下さん)、愛知ネット(天野さん)など)
・コミュニティFMなど、地域の防災について自分たちにできる範囲で貢献したいという意識のあるところは参加しやすい。(FM戸塚、FMながおか、ミュージックバードなど)
【デメリット】
・自分たちの専門性に強く依拠するため、視点が限定的で視野が広がらない。
・成果は見るべきものがあっても、仲良しサークルで終わってしまう可能性がある(外に向けた情報発信や展開ができにくい)
・企業の地域貢献活動としての防災という意識がまだまだ希薄なため、参加する業種が限られている。
さて、今年はどういうグループが参加してくれるでしょうか。楽しみです。
さまざまな政府機関が地域の協働の大切さをWEBページなどで働きかけていますが、こと防災についても、現実にはさまざまな障壁があります。これらをうまく克服する手法を開発するのも、我々の大きな課題ではないかと考えています。
つぼつぼのprofile
国立研究開発法人 防災科学技術研究所
防災情報研究部門
所在地
茨城県つくば市天王台3-1