2013年度防災ラジオドラマコンテストも応募期限が迫ってきました。今年も全国各地からいろいろなタイプのドラマが制作され、応募されることが期待されます。地域の主体が多様化する中、旧来の自治会や自主防災組織だけではなく、さまざまなサークルや事業者、学校、学生など、地域防災に興味を持ち、何らかの役割を果たしたいと考える集団であればだれでも応募できる試みとしてスタートしたコンテストも早いもので、今年が第4回目になります。
今回、江東区東雲地区にある、かえつ有明中高等学校において、コミュニティFM局に番組を提供している(株)ミュージックバードさんが協力してくれる形で防災ラジオドラマが制作されました。その制作過程をこれまでずっと取材させていただく中で、いろいろ興味深いことがわかってきましたので、ここでちょっと紹介したいと思います。
何がわからないのか
ドラマづくりの最初のステップは、何をテーマにしてドラマを作るのかということになります。学校が舞台で登場人物は生徒中心であることはすぐに決まったのですが、災害の種類や具体的な状況設定は、たぶん制作する生徒さんたちも初めて取り組むことで、わからないことが多かったのではないかと思います。まず自分たちの置かれている状況をよく理解し、わからないこと自体を発見すること、そして「わからないことはどうすればわかるようになるのか」を、いろいろな角度から検討することが求められます。与えられる防災ではなく、自分たちで主体的に取り組む防災がここから始まる気がします。これまでのコンテストでも多くの作品が応募されましたが、正直なところ「自分達で考えた作品」というのは必ずしも多くなかったように思います。無理に結論付けずに、わからないことはわからないままにして問題提起するのも、またドラマの手法の一つなのかも知れません。
多世代で取り組む
都内にある私立の中高一貫教育校ということで、通学範囲もかなり広範囲でさまざまな背景のある生徒さんたちが集まっています。いままで学校単位で応募のあった作品は概ね同学年の仲間が集まって作成したものが多かったのですが、今回のドラマづくりには中学生から高校生まで、6年間の開きがある生徒さんが集まって議論されたのが印象的でした。普通、この世代での6年間の年齢差は、思った以上に隔たりがあり会話もなかなかしづらいものですが、参加したメンバー間の様子を見ていると、私たち旧い世代では考えられないほどスムーズに行われているのを見て、中高一貫教育の大きな効果の一つを見たように思います。これから数年後、彼らが社会に出るときには、世代間の認識のずれもあまり無いようになっていくのかもしれません。
体面や体裁
行政が主体の防災に関する取組は、たとえば防災訓練が良い例ですが、失敗やミスは生じないように進められます。つまりすべての出来事が予定調和的で、時間通りに「恙なく行われる」ことが最優先で進められるわけです。しかし実際の災害ではそのようなことはほとんどありません(だからこそ「災害」になるわけですが)。ドラマを作るうえで大事なことの一つは、印象を強くしたり、意義を形作ったりするために、意図的に混乱を生じさせること、それによってまさに「ドラマチックにする」点があります。もし学校がその体面や体裁を前面に出していたら、全ての対応が上手くいくだけの面白みのないドラマになってしまうでしょう。今回の事例では、先生方がドラマ制作にはほとんど口を出さずに生徒さんたちの主体に任せていたので、一切体面や体裁にこだわっていません。これはとても大事なことではないかと思います。
さて、こうやって制作されたドラマですが、最終的な応募はこれからです。今回も防災研究者が思わず唸るような作品が寄せられることを切に願います。