防災に関わる情報システムの開発にあたって、比較的多く使われるうたい文句に「相互性」あるいは「双方向性」というものがあります。これは多くの場合、利害関係者がその立場を超えて互いに情報を開示しあうことで、効率的かつスピーディにリスクに関する情報を得られる環境を整備することを目指しているように見られます。ただ、残念ながら現実社会ではこの相互性が十分に機能していないシステムが少なからず存在するようです。
去る10月28日に、会計検査院が国土交通大臣あてに改善処置の要求を行った「土砂災害情報相互通報システムの活用について」を読むと、土砂災害から市民の生命を守るためにこのシステムの導入を進めてきているはずなのに、多くの都道府県で「住民からの情報提供が行われておらず、相互通報システムが十分有効に活用されていない」ということが報告されています。具体的にどのような欠落が認められるかは、報告書にわかりやすく書かれていますので割愛しますが、このような問題を生じさせた原因について、会計検査院は次の3点を指摘しています。
1)(国土交通省が)相互通報システムに双方向機能を具備させるための検討に時間を要し(中略)、補助事業等採択基準の取扱いの見直しを行っていなかったこと
2)(都道府県側も)相互通報システムに双方向機能を具備させることの必要性についての理解が十分でなかったこと(以下略)
3)相互通報システムが、住民と都道府県との情報交換を推進するための重要な手段であることについての理解が十分でないこと(以下略)
このうち2)3)についてはその結果として整備計画やシステムが要件を十分満たしていないことが指摘されています。しかし良く考えると、この計画の一番の眼目は「相互性を担保する」点にあることは明確で、そのこと自体がよく理解されないでシステム整備のために多額の予算がつけられて事業化してきたのははなはだ疑問です。
うたい文句と現実との差があることはしばしば見受けられますが、相互性や双方向性という言葉は水平型協働のイメージとも繋がり、あたかも情報民主主義の象徴のように思われているだけに、かなり残念です。どこか一か所でもいいですから、危機管理に関わる情報の相互運用が実現している場所を広く紹介して、そこでの課題や効果について考察を深めてもらいたいものです。