大島町役場の台風26号時の災害対応のまずさが指摘されています。災害が起きるかもしれない状況が目の前に迫っているのに、役場の態勢が「そもそもなってない」という声はごもっともでしょう。このような事態に危機管理の最高責任者である町長も副町長もいないというのは、全く理解しがたいですし、危機管理に必要なスタッフが直前に一斉帰宅してしまい、いろいろなFAXが届いていても気づかなかったというのは、あまりに緊張感が無さ過ぎる気がします。しかし、仮に大島町の職員がだれか残っていてFAXに気づいたとしても、何か対応行動をとったかというと、どうも怪しい気がします。18時過ぎに気象庁が連絡した土砂災害警戒情報とはどのような事態なのかが、おそらく関係者での諒解ができていなかったのでしょう。実際大島町でも以前に同様な大雨のケースがあり、土砂災害警戒情報が出されていたのに、一度も避難勧告を行ったことが無いと報道されています。このような事例は深刻な災害に直面したことのない多くの自治体ではしばしばみられることです。日本には1700余りの基礎自治体(市町村)がありますが、深刻な災害に直面するのは年に数か所の自治体だけですので、ほとんどの被災自治体職員は「初体験」で災害に直面するのが現実です。よって危機管理を体験した人たちのノウハウを真剣に共有することこそ、これから体験する(かもしれない)関係者にとっては急務であるといえるでしょう。
最近はIT技術を活用して沢山の高度な「防災情報」の配信が行われます。如何に高度な情報システムであっても、肝心の情報の持つ意味が相手に伝わらないのであれば役に立ちません。FAXで送った、メールで出したというだけでは、届いたことにはならないのが厄介なところです。緊急時に忘れてならないのは、このような情報であっても関係者間で「以心伝心」な関係になっていなければ、危機管理では役に立たないという点ではないかと思います。伝わるはずというのは、情報を出すほうの思い込みであることが少なくありません。相手がどう受け止めるかを考えて情報を出すことは非常に難しいことです。また同じ情報でも関係者が「共有する」ことは容易ではありません。東日本大震災の折にも、さまざまな機関、組織が被災地で一生懸命活動していましたが、その組織同士で情報が十分に共有されているケースは決して多くなかったように思います。今でこそ消防、警察、自衛隊が連携してなどといわれていますが、被災地ではそれぞれ独自に動いていたために沢山の「ズレ」が生じていた現場を私たちは良く見ています。いったい何が災害時の情報共有を妨げているのでしょうか。
組織に属していると、その組織の中では意思決定権に序列があるので、どうしても上に判断を仰ぐようになります。それを乱すことはなかなかできないのが日本社会の特徴でもあります。かくしてそれぞれの組織で「上に報告する」ことをやっているうちに、手遅れになってしまうことはしばしば見受けられます。効率的に、水平的に、情報を広くあまねく共有することを妨げる原因の一つがここにありそうです。情報技術の進展で情報伝達の速さは飛躍的に早くなりましたが、この点でもたもたしていてはせっかくの技術が生かされません。もう一つ公的な立場にある人たちによくみられる傾向が、軽々に危機管理に関わる情報を漏らすことは許されないという思い込みです。危機管理に深くかかわる組織になればなるほど、職務上知り得た情報は関係者外に漏らすことはいけないものだという意識が強く働いているように思います。かくして役所を含む多くの組織は、本来公的な情報で誰もが知るべき情報をなかなか伝えようとしないうちに、取り返しのつかない事態になってしまうことが見られます。そのような障壁を思い切って突破していく勇気のある行動のとれる人材こそが、今一番必要になっているのではないかと思います。