福岡の整形外科病院火災では10名の入院患者が亡くなるという痛ましい結果になりました。高齢者で避難もままならない方々が多かったことや、防火扉の不作動など施設の防火設備にいろいろな問題があったこと、さらには火災覚知後の通報の遅れなど、いろいろな問題が指摘されています。これらは制度的な対策の限界を知るものでもあるような気がします。消防法や建築基準法など、施設安全を規定する法規はさまざまありますが、規定があればそれ以上の性能を目指すことは経済原理から行ってもなかなか難しく、結局は基準ぎりぎりで運営されている施設がほとんどという結果になってしまうのではないでしょうか。基準をはるかに超えるような対策をとっている場合には、何かメリットでも与えない限り、より上の安全を目指すことは難しいのが現実でしょう。
今回の火災事故の直前に、東京の三鷹で女子高校生のストーカー殺人がありました。この殺人事件は防災とは直接関係ありませんが、今回の火災事故とある点で共通していることがあるように思います。それはこの2つのケースがいずれも事態に対する対応の「失敗例」だったという点です。平成24年の消防統計によれば、病院で発生した火災は年間102件に上ります。その中には出火後の対応で犠牲者を一人も出さずに済んだ事例もあるはずです。そのようなケースでは、防火扉が作動して被害を免れたのか、消火器や屋内消火栓で初期対応がうまくいったのか、はたまたスプリンクラーが作動して延焼を防げたのか、さらには平時の訓練が功を奏して無事に避難できたのか、などなど事故時の成功に至った知恵がいろいろあるはずです。日本ではそれらの情報があまり公開されているとは言えません。死者を伴うような大事故や災害が起きてしまうと、私たちはどうしても失敗例ばかりに目を向けてしまいがちです。しかし本当に大切なのは「成功例」にも目を向けて、どういう準備や体制をとっていれば被害が押さえられたのかを正しく学ぶことではないかと思います。ストーカー殺人も悲惨な出来事ではありますが、きっと被害の寸前で食い止められたケースがあるはずです。それらを知らずして失敗例だけで対策を議論するのは片手落ちといわざるを得ません。
社会の多様性が増す中で、未経験事象に遭遇する可能性が高まっている気もします。そうであればなおさら、失敗例だけでなく成功例もたくさん知り、その対応のノウハウを知ることで、私たちはより安全になるためには何をすればよいのかを具体的に理解できるようになるのではないでしょうか。