いよいよ今日から災害の「特別警報」が運用されるようになりました。今年の夏も全国各地でこれまで経験したことがないような大雨や高温が発生し、沢山の被害が出ています。人の移動の増加や核家族化の進展で、災害記憶や経験の伝承が難しくなっている今日、物の被害は防げなくても、せめて生命だけは保全できるよう万全の措置をとるために、この新しい警報が役立つことを期待したいと思います。
さて、先日名古屋地裁で大変重要な判決が出されました。事件は2007年の12月に遡ります。当時91歳の認知症の男性が自宅から出て徘徊中にJRの電車にはねられ死亡するという事件が起きました。当時男性は要介護度4だったという報道がありますが、常に介護を必要とする状態ではあったようです。妻(85歳:要介護度1)がまどろんでいるすきに外出してしまい事故に遭ったと報じられています。まだ詳細な判例がWEBにアップされていないようですので、詳しい背景がわからないのですが、結論から言えばこの事故により男性は死亡し、その結果運行遅延が発生したJRが損害賠償を請求し、判決では720万円の賠償金を支払えという形になりました。
事故を起こした当人が亡くなっているうえに、賠償金まで支払わねばならないということで、ネットではずいぶん酷な判決だという声が上がっています。実際問題として、徘徊癖のある高齢者を抱えている家庭は少なくないでしょうし、もし本件のような事案での賠償が認められれば、認知症の高齢者は家庭内での拘禁状態を余儀なくされるのではないかという恐れも出てきます。一方でJRにしてみれば、通常運行している列車がこのような事態で遅れることが相次げば(そうでなくても列車自殺が後を絶たない社会でもありますので)、事業者としてきわめて困難な状況に陥るでしょう。事故にまで至らなくても、高齢者に関わってひやりとした事例は枚挙にいとまがないのかもしれません。
私達のような防災の世界に関わっている人間でも、特に最近避難所などの訓練を行う時は真っ先に高齢者、要援護者の問題が取り上げられます。災害での避難中にトラブルが大きくならないためにも、家庭だけではなく社会での支えあいの仕組みをさらに工夫しなければなりません。報道されている情報だけでは事件の背景まではわかりませんが、介護保険をはじめとするさまざまな福祉制度をどこまで利用していたのか、またもしその利用が不十分であったのならそれはなぜなのか、家族と地域でどこまで支援ができたのか、また事業者としてのJRはもっと安全対策は推進できないのか、等々知りたいことはたくさんあります。判決が今後どうなるのか注目すると同時に、それぞれの立場で社会の安全を考えるという風潮を高めて行く必要があります。