与党の共同提案で「国土強靭化基本法案(仮称)」が衆議院に提出されました。強靭(きょうじん)という難しい言葉である上に、脆弱性評価だとか多極分散型国土形成だとか、難しい言葉が連なる法案ですので、一般市民にはちょっととっつきにくいものではあります。条文案は41条からなり、総則、基本計画、基本的施策、戦略本部、国民運動本部、雑則から構成されています(全文はこちら)。
強靭の「強」はつよいこと、たくましいことですが、「靭」はしなやかなこと、粘り強いことを表す文字です。強いけれども折れやすいのではなく、柔軟で打たれ強い状況を作り出すことを目指している言葉をあえて使ったのでしょう。英語のレジリエンス(resilience)に対応する概念と言われているようです。内閣官房には政策課題を検討するための懇談会として「ナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会」が設置され、こちらでは強靭化を推進するための前提となる脆弱性評価の指針などを検討しています(資料はこちら)。
強靭化基本法案の基本理念にはこの法律のよって立つ理念として、「東日本大震災を契機に、経済等における過度の効率性の追求が人口及び行政、経済、文化等に関する機能の過度の集中を生み、国土の脆弱性をもたらしていることが明らかになったのに鑑み」とあります。震災の反省に立つのは結構なことですが、これまでの国土開発でも調和のとれた開発は大きな目標でうたい文句であったはずですが、どこに行ってしまったのでしょうか。過去の反省を踏まえずに、新しい法律で隠されてしまうというのでは困ります。私くらいの世代では調和のとれた国土開発という表現が出てくると、ついあの全総(全国総合開発計画)を思い浮かべてしまいますが、地方分権型の方向で消えてしまった亡霊が今回の法案で復活したような印象もなきにしもありません。
とはいえ、人の移動や住宅開発、物流などが中心だった過去の全総ではなく、情報通信やエネルギーなど、今の時代において重要な社会インフラについても包含してトータルに脆弱性をなくしていくという考え方は極めて重要で、一部の対策だけが突出しても全体としての安全が確保されていなければ実効は少なくなってしまいます。今回の法案では少子高齢化、人口減少など日本が直面している目下の課題も明文化されているのですから、是非掛け声だけではなく実を結ぶ発展に向かってくれることを願います。何せ10年間で200兆円!もの予算を使うことが計画されているようですので。