リスクがあるとわかっていても、それが顕在化しない限り私たち人間はなかなか対処しようとしないものです。投資でも「ここで止めておけばよかった」というところを見極める方が、「ここに投資しておけばよかった」という判断をするより難しいそうですから、まあ人間は生来の後悔(リグレット)する生き物ということでしょうか。「わかっちゃいるけどやめられない」というフレーズは言い得て妙といったところですね。
わかっちゃいるけどやめられないものの代表と言えばタバコです。最近の研究(New England Journal of Medicine)では40歳前後までに禁煙に成功した人は、喫煙によって損なわれた平均余命をかなりの割合で取り戻すことができるそうです。喫煙していない人は喫煙した人よりも長生きすることははっきりしているのですが、途中で禁煙に成功した人がどこまで寿命が取り戻せるかというのは、いろいろなケースがあって疫学的に有意な結果が出るにはだいぶ手間がかかったのではないかと思います。それにしてもこの種の疫学的調査が出るたびに、その解釈はいろいろな誤解を生むようで、これについても見方によっては「40歳までは喫煙していても大丈夫」とも理解されかねませんね。実際「やめようと思ってもなかなかやめられない」のがタバコというものですので、初めから吸わないのが一番いいわけですが、今吸われている人は早めにこのリグレットポイントにたどり着かれることが望ましいのでしょう。喫煙によって生じた健康被害のために多額の医療費がかかることを考えても、社会的コストは結構なものなはずです。
自分はもう50歳を過ぎたので、いまさらやめても寿命は変わらないといわれる人には、この研究結果はかえって「喫煙を続けるためのいい口実」になってしまうのでしょうか。いやはやリスクの表現は難しいですね。