アルジェリアの人質事件で犠牲となられた方の名前の公表についていろいろな意見があるようですが、全く別の問題でも実名報道が話題になっています。今朝のNHKニュースで流されましたが、八王子市と小平市が市内の空き家防止のための条例を策定し、今年4月から適切な管理ができていない空き家が放置された場合には、その所有者の実名を公表するというものです。八王子市内には2万8千件の空き家があり、それは全住宅の1割にも上るといいます。このように「社会のルールから外れている」個人や組織に対して、その名前を公表するという対応をとるケースは近年いろいろな分野で増えてきています。身近なところでは不法投棄などで環境に害を及ぼすような物質をまき散らした企業や、交通違反を繰り返す運送業者の名前など、いろいろなものが実は「公表」されています。これは多分に「公表によって反省させ改善が行われる」ということではなく、「今後同じような不適切な行動がとられないようにするための警告を与える」という性格のものであると思われます。
考えてみれば、防災についても課題や問題を放置したままにしているケースは一杯あり、建築基準法に違反している建物や、所定の性能がないのに偽って営業を続けている商業施設までさまざまです。これらについてはやはり一定の社会的けじめをつけるルールが求められると思います。色々な理由を付けて、安全を軽視して利潤ばかり追求しているケースにはきっちりとした対処が求められるのは当然だといえるでしょう。ところが実際にはその種の「危険」情報を前面に出して消費者に知らせるという努力は非常に少ないのが現実です。例えば全ての建物に、その耐震性能の表示を義務付けさせることは不可能でしょうか。どのような建物でも、そこに入る際にその表示を見られるようにし、「この建物は旧基準で建てられているから、地震の際には危険かもしれない」と考えることができるようにすることは、一種のリスクコミュニケーションですが、まずはそこからもっと改善していく必要があると思います。以前にカリフォルニアに出張した際に、現地のレストランには全て「衛生度」のランク表示が義務付けられているのに驚いたことがあります。高級ホテルの高級レストランから、下町の屋台のような店まで、全てが営業するためにその「表示」が求められています。この徹底ぶりには敵わないかもしれませんが、私たちの社会でもリスクに関する対話を増やしていかないと事故が起きた後に問題になるケースが増えるような気がします。名前を公表することが、単なる「罰」や「見せしめ」と思われるのではなく、それによって「社会が良くなるように」ドライブをかける仕組みが実はなかなか難しく、私たちはもっと工夫をする必要がありそうです。
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