このブログの右側にある「本棚」で取り上げている本は、普通の市民の方で特に防災に関心のある方が読まれても役に立ちそうだと私が感じたものが中心となっています。東日本大震災のような大規模な災害が発生すると、防災に関する出版物は急速に増えるものですが、最近ではさまざまな生き残りのためのハウツーものも充実してきました。例えば、MAMA-PLUG編の「子連れ防災実践ノート」(下写真)は、被災経験のある母親たちの声を活かした「子連れ」ならではの視点が取り入れられたもので、同じ状況にある人たちでなければ実感できない細かい気づきがいろいろ取り入れられています。人は「自分と似たような境遇の対象に対して共感を得やすい」という、我々が以前に災害リスクプラットフォーム研究開発の前提に置いていた個々人の状態に即したリスク情報を整備する必要があるという目標を実践しているともいえるものです。
現代は社会の多様性を容認して積極的に受け入れていかなければいけない時代です。かつての高度経済成長期には既成服を受け入れるように一定の枠に収まらざるを得なかった私たちの「満足感」は、いままさに枠からはみ出さなければ満足しないレベル、オーダーメイドの服でないと満足しないレベルにまで達しています。見方を変えればそれが可能なほどあらゆる技術が成熟したともいえるのかもしれません。防災についても社会を構成する個々人の多様なライフスタイルに合わせたものを作っていかなければなりません。
国や自治体もそれぞれのサイトで沢山の防災教材を公開しています。それはどれも大変よくできてはいますが、ちょっと網羅的過ぎて、ややもすると読み手に共感を生み出しにくい感じがします。「親を介護している人のための防災」や「障害のある家族を抱えた家庭での防災」など、個別の事情を反映した防災技術をもっと充実させることも必要ですし、何よりその人たちに現実的な支えが生まれるような、周りからの働きかけができる仕組みが必要です。
人は何もない時(何の変哲もない日常がおくれているとき)には災害や疾病や事故など、不幸な現実にはなかなか向き合わないし、対策をとることもしないものです。何かが変わるきっかけとなるような出来事、たとえば「家を建てる」、「就職(転職)をする」、「結婚をする」など、人生のターニングポイントになるようなイベントに合わせて、防災についても考えてみる、その仕組みが大切なのだと思います。教材は進歩したけれど、なかなか使われないということにならないよう、きっかけを発掘することも忘れないで取り組みを進めていきたいと思います。
ママだけではなく、パパにも読んで(書き込んで)もらいたい本です。
つぼつぼのprofile
国立研究開発法人 防災科学技術研究所
防災情報研究部門
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茨城県つくば市天王台3-1