このブログでもしばしば紹介している社会統計データ図録の本川裕氏(アルファ社会科学)が新しい著書「統計データはためになる!-棒グラフから世界と社会の実情に迫る」を刊行されました。私たちのプロジェクトに関わりの深い災害や各種リスクに関する指標も含んださまざまな統計が、棒グラフを中心にわかりやすく図化、解説されています。マスメディアでいささかオーバーに報道されているいろいろな社会指標を、統計的にみるとどうなっているのか、意外なものもあって大変興味深い本でお勧めです。
いわゆる「統計情報」は私たちに社会の現状を非常にわかりやすく示してくれますが、一方で難しいなと思う部分もあります。一つは違う社会間の比較、例えば国同士を比べるようなテーマです。外見上は同じように見えても、実は文化や習慣の違いで、事象の定義が微妙に違っていたりすることはよくあります。以前にこのブログでも書いた火災や犯罪などの統計の国家間の違いなどはその一つです。また私が担当している大規模な災害の後で必ず議論される社会保障の在り方についても、負担と受益の関係について、違う国同士で比べるのは実は結構大変なのです。これを逆手にとって、「諸外国ではこんなに厚く手当てされている。」とか、「外国にはこういう制度がある。日本は遅れている。」というようなことを声高に言う人がいますが、それぞれの社会の成立背景まできちんと踏まえた上で考えないと、誤解の上に新たな制度を構築しかねず、結局は日本では活用されないなどという笑えない事態になりかねません。
もう一つ、統計の大切なところは、長い目で見て社会がどう変わっていくのかということを考えるための大きなよりどころとなっている点です。例えば日本社会がいま直面している最も大事な社会的変化としての少子高齢化についても、これまでの変化が未来を予測するためのよい根拠になっています。ただ、社会的に交わされている未来に関する議論が、どの時点を特定しているのかいつごろまでに何を達成していくべきなのかが、はっきりしていない論議が多すぎるのも事実です。防災についても社会を強くするための工夫を、いつごろまでに何を達成するのか、そろそろわかりやすい青写真を示す時期に来ていると思います。
つくば市をはじめとして首都圏の地域防災でお話をさせていただくと、多くの方々がお住まいの地域の実情に関するデータに高い関心を示してくれます。沢山のデータは公開されてはいますが、現場ではなかなか使われていません。未来はこうなる、だからいつまでに何をする必要があると、もっと明確に私たちは統計データに基づいて考えなければならないのだと思います。