磯野家の家族はいつまでたっても決して歳を取らない、全くもって恵まれた人たちです。うらやましいと言えばうらやましいのですが、現実世界に生きる私たちはそうも言っていられません。日々衰えを感じつつ老後に対する備えを進めておくのが大切だと頭ではわかってはいても、なかなか行動に移せないのが現実でもあります。というわけで磯野家の相続なる本が売れたのでしょう。
さて、磯野家がもし現実の家庭のように老後を迎えていくとしたら、相続も大事ですが防災ではどのような対策が必要でしょうか。まず考えられるのは家の中の安全性です。高齢者のかなりの方が家庭内で転倒や落下など、身体に重要な影響を及ぼす事故に遭っています。厚生労働省による家庭内事故の統計を見ると平成23年中に不慮の事故でお亡くなりになった方の総数は5万9千名余り、このうち2万1千人が自然災害による死者(殆どが東日本大震災によるもの)ですから、それ以外3万8千人は日常での事故による死者となります。交通事故による死者は漸減傾向にあり、昨年は6700人余りでした。家庭内での転倒・転落による死者は7700名ほどで、交通事故より多いのです。しかもその83%が65歳以上の高齢者となると、家の中でのちょっとした事故がいかに高齢者の命にかかわってくるかがわかります。家庭内の事故防止対策はとても大切なのです。
不慮の事故の種類別に見た 死亡者数(平成23年) | 総数 |
交通事故 | 6,741 |
転倒・転落 | 7,686 |
生物によらない機械的な力への曝露 | 495 |
生物による機械的な力への曝露 | 15 |
不慮の溺死及び溺水 | 7,356 |
その他の不慮の窒息 | 9,878 |
電流等への曝露 | 29 |
煙、火及び火炎への曝露 | 1,434 |
熱及び高温物質との接触 | 136 |
有毒動植物との接触 | 25 |
自然の力への曝露 | 21,067 |
有害物質による不慮の中毒及び | 942 |
有害物質への曝露 | |
無理ながんばり,旅行及び欠乏状態 | 54 |
その他及び詳細不明の要因への不慮の曝露 | 3,558 |
計 | 59,416 |
幸いにも平屋である磯野家では階段での転倒はなさそうですが、磯野家は在来軸組工法の家で(図面は長谷川町子美術館にあるようです)、居室は全て和室のようです。和室は日本の気候風土が生み出した素晴らしい文化ともいえますが、高齢化が進んできている現代では安全面でちょっと厳しい気もします。まず畳の継ぎ目や敷居などでけつまずくと、大怪我に繋がります。骨折してそのまま寝たきりになるお年寄りもいます。できればすべての部屋をフローリングにして転倒事故を防ぎたいところです。また車いすでも移動できるよう、広々とした廊下やドアに工夫をする必要があります。開き戸にしておくと解放時に意外と場所をとりますし、車いすの通行の妨げにもなるので、最近では引き戸にする家も増えています。
家庭内事故で意外と多いのが溺死です。平成23年では約7400人が何らかの事情で溺死していますが、そのうち約5千人は浴槽内での事故によるものです。高齢者の割合も当然高く89%となっています。磯野家の浴槽が安全な形状で、かつ滑らないような対策がとられていることを祈ります。