災害や事故が起きるたびに、いったい日本は危険な国なのか、外国ではどうなのか気になるのは人の常でしょう。しかし災害でも事故でも、あるいは犯罪のようなものであっても、国同士のリスクの比較をするのは意外に難しいものです。それはそのリスクに対する認識や定義の違いがかなりあるために、リスクを伴う事態が起きたのかどうかが正確にはわからなかったり、被害の程度が違うため並べて評価してよいものかわからなかったりするのです。それでも各分野の専門家は何とか国際比較をしようと取り組んでいます。
例えば犯罪ですが、平成23年の犯罪白書には参考資料として日本、フランス、ドイツ、英国、米国の犯罪認知件数が収録されていますが、人口で除して犯罪発生率(10万人あたり)に直すと、日本が1336、フランスが5639、ドイツが7383、英国が7916、米国が3466となっています。これだけ見ると確かに日本は犯罪に巻き込まれる確率が他国と比べて低いのかなと思われます。しかし厳密には窃盗、傷害、詐欺、などの犯罪の形態や内容は国によってかなり違うようです。それぞれの国にはその国の社会、文化的背景を知ったうえで、安全や危険を理解しないと簡単には比較できないということになるでしょうか。
次に火災ですが、日本の一年間での火災件数は平成22年中で46620件、死者数は1738名となっています。これに対して、たとえば米国では2011年ベースで484500件の火災が起きているという統計があります。出火件数では日本の約10倍にものぼりますが、死者については約3000人と日本のほぼ1.7倍と報告がなされています。米国の人口は3億1千万人もいますので、死者の発生率だけを見ると日本のほうが米国よりむしろ高いことになります。日本は出火そのものについては火気器具の性能の向上などもあり、かなり抑えられてきていますが(それでも出火原因のトップは放火ですが)、一方で住宅が木造だったり、高齢社会で逃げ遅れが増えているなど、人の脆弱性が高くなっているという特徴があるようです。もちろん米国では家の広さが日本と比べてかなり広いので、火災の際にも逃げやすい(したがって死者が生じにくい)という側面もあるでしょう。
厳密に考え始めると、そもそもリスクの国際比較について、どこまで妥当性があるのかわからなくなってしまいますね。
同じリスクがあっても、国や地域、あるいは民族によって対処の仕方は違っているのは当然ともいえます。日本では予防措置にかなりの手間をかけますので、いろいろな事故や望ましくない事態が「できるだけ起きないように」と手を打っておく傾向にありますが、事故が起きてしまったときに、「どう対処するか」についてはあまり上手じゃないようです。それは今回の震災による原発事故の対処を見ていても明らかです。
事故がないことを前提にした災害対策では、それを裏切るような事態が万一でも発生すると全く役に立たないわけですから、私たちは不測の事態についてもそれなりに対処できる新しい防災の枠組みに向けて、頭を切り替えていく時期に来ています。