またまた大惨事が起きてしまいました。中央自動車道の笹子トンネル上り線で長さ100メートル以上にわたりコンクリートの天井板が落下し、走行中の車が下敷きとなったり、さらに車両火災も発生するという大事故になってしまいました。現時点(12月4日現在)での死者は9名にも上っています。これまでも高層自動車道のトンネル内での衝突事故や火災が発生するたびに新しい安全基準が設けられたり、点検が行われたりしましたが、それでも事故は形を変えて発生し、関係者を悩ませる問題となっています。犠牲になられた方々とその関係者の方々には深くお悔やみ申し上げます。
道路トンネルで崩壊した事例と言えば、1996年2月に発生した北海道の古平町にある豊浜トンネルの崩落事故でしょう。古平町側の出口付近で推定数万トンもの岩盤が崩壊し、中に路線バスと乗用車が閉じ込められました。トンネルを埋め尽くした岩を取り除くために発破を仕掛けたわけですが、閉じ込められた人たちの安全を考え、なかなか一発で岩塊を除去できず、結局車に達するまでに4日間を要した救出劇となりました。実はこの事故の少し前、北海道南西沖地震(1993年)が発生したため、私もこのトンネルは被災地調査の関係で何度か通行していました。我々が事故に遭わなかったことは偶々だったと言わざるを得ません。豊浜トンネル事故では残念ながらバスの乗客も乗用車の人たちも誰一人助けることはできず、20名の尊い命が失われました。
今回の事故を契機に、国内にあるトンネルの点検も行われると思われますが(国土交通省の12月3日付の点検指示49か所のリストはこちら)、今回の事故が防げなかったのはなぜか、これから原因も含めきちんと検証していく必要があります。
私達が今暮らしている社会は1億2千8百万人という非常に大きな人口を前提とした社会になっています。しかし私たちはすでに過去に例のない人口減少の社会に突入しており、最終的には現在の3分の2ほどまで人口規模が縮小する可能性があります。トンネルだけではなく、橋梁、ダム、堤防、港湾などの土木施設、さらにはビルや住宅に至る建築物、電気、水道、ガスなどのライフライン等々、社会にあるさまざまなインフラが全てこの縮小社会の中でも機能が保てるよう、対策をとっていかなければなりません。もしかすると、「道路に穴が開いていてもすぐには修復ができない社会」になっていくのかもしれないと考えると防災に関しても考え方を根本的に変えてゆかねばならない時期に来ているとも言えます。
家を建てるときに自分が歳を取った時のことを考えておくことはなかなか難しいのですが、将来に禍根を残さないようにすることが現世代の責務であるとすれば、我々はまさに未来のために大きく舵を切らなければならない時期に来ているのです。
国土交通省によれば、日本の道路の総延長は1,268,743.0㎞だそうです(農道などは除く:平成22年4月現在)。人口一人当たりにすると約10メートル。すべての道路に、国民一人一人の名前をあてて、それぞれに適切に管理してもらうなんて話にもなりかねない時代になってきたのかもしれません。