阪神・淡路大震災以来、建物(構造物)の耐震性が重要だという認識は急速に高まったと言ってもいいでしょう。併せて耐震偽造事件が起きたこともあり、住宅を選ぶ際の最優先要素が「耐震性」にある消費者はかなりの割合になっているようです。「広さ」や「間取り」、通勤通学の「利便性」もさることながら、「周辺環境」や「対災害性」を重視することは、資産としての住宅への意識も変えつつあるともいえます。しかし新築住宅でも買ったとたんに「中古」になってしまい、再売買価格が急落してしまうこの国の不動産市場の貧しさを何とかしないと、初期性能の維持のために修繕や管理をきちんとするなどの投資をしても報われないという変な社会になってしまいます。中古物件でも手入れをしてきちんと管理すれば、購入時より高く売れることもある欧米のマーケットのようにする必要があります。
さて、学校ですが私たちも街なかでしばしば見かけるように、がっちりとしたV字あるいはX字の耐震補強がなされている校舎が増えつつあります。それでも公立学校の耐震化率はまだ全体の85%程度で地域によってかなり差があり、文部科学省の調査では50%未満の自治体が65もあるとのことです。地域経済が厳しい状況の中、自治体ではなかなか耐震改修のペースが上げられないのだとは思いますが、未来を担う子供たちと高齢化が進む地域のために、出来る限り進めていただきたい施策の一つといえるでしょう。
つくば市内の小中学校に実施したアンケートによれば、学校関係者はたとえ耐震補強をした校舎であっても不安だという声がかなり多く寄せられました。これは建物の構造が外見ではわからないことによる大きな問題です。耐震補強が済んでいない建物には、わかりやすい色を塗るなどして何らかの「区別」をしておくことも検討しても良いのではないかと思います。有事にはそちら(危険な建物)に行かないという判断ができることで、もしかすると命を救うことになるかもしれません。このように、私たちの身の回りにあるもので災害時に問題があるものは、誰にもわかりやすくメッセージを発するようにしておくこと、これも私は防災上の重要なコミュニケーションだと考えています。
次に学校内で避難する際には、避難ルートをはじめから想定した建物の使い方を計画しておくことも大切です。ある学校では校内の各所に避難ルートを図示した矢印や図面を掲示していました。ところがその図は貼られたところで見るには方位がずれていて、読み取りにくいものでした。その図に向かって見たときに同じ角度で周囲の状況が対応し、取るべき行動が一目でわかるようにする。余計な情報は省くなどした、避難誘導のためのわかりやすいデザインについても、よい事例を集めてそれをどんどん紹介し、各校の現場で参考にしていけばよいのではないかと思います。
建物は使い方次第で命を守ることも、そして命を損なう原因にもなります。身近な構造物の安全性について、私たちはもっと意識を高めることが必要でしょう。