学校での防災教育はいろいろな試みが始まっていますが、それがどのような効果を生み出しているのかはなかなか分かりにくいものです。できることなら将来、その教育効果が発揮されるような大災害には直面したくないものですが、こればかりは予測ができません。それは災害という事象に直面すること自体が、そもそも不確実な出来事であるからです。災害をリスクとして捉えると、私たちはまだ確率的な側面からの物言いしかできません。すべての出来事を決定論的に解明することができれば、災害リスクを前もって予測することも可能になるかもしれませんが、どうもその道のりはかなり遠そうです。
というわけで、私たちは多くの防災の現場で、リスクに基づくコミュニケーションを実際には行っていないのが現状だといえます。言い換えると現場でもっぱら行われているのはハザード情報に基づくコミュニケーションであって、リスクに読み替えるところは、確率のみならず個々人の価値観にも大きく依存するので、専門家が行うのではなく、受け手である一般市民にゆだねられているのが現状だと思います。では、ハザード情報によるコミュニケーションは十分行われているのでしょうか。そしてそれは個々人の中で自分自身のリスクとしてきちんと変換されるに必要な情報や仕組みが用意されているでしょうか。
学校での防災教育の一つのポイントが児童・生徒に「自分の暮らす地域を知る」ことです。ところが実際に学校に行って子供たちに例えば学校と自宅との間の地図を書いてもらったり、地域にどんな人が住んでいるかとか、災害時に役立つような資源に何があるかを地図に書き込んでもらうと、思いのほか情報が出てこないことに気づきます。地理教育の衰退なのか、地域に対する無関心さの表れなのか、分析するだけのデータを持ち合わせていませんが、小学校や中学校を電車やバスに乗って行かねばならない遠方のよい学校に通わすことも大事ですが、家から学校までを一つの生活空間を把握する軸として地域をとらえることができる近場の公立学校を選ぶことも、成長期にあってはとても大切な気がします。先日の谷田部中学校では先生方が子供たちに自宅近所の高齢者についていろいろ調べさせていましたが、とてもよいことだと思いました。
現在私たちのプロジェクトで公開しているeコミマップでは、土地条件図や航空写真(空中写真)、迅速測図(明治時代に作られた簡易地図で、その土地の成り立ちなどが分かるもの)などがあり、これらは行政から公開されているハザードマップと併せて、現在の地図の上に重ねて表示して考えることができるのですが、こういうハザード情報に基づくコミュニケーションをもっとさまざまな形で推進してゆかねばなりません。せっかく高い経費をかけて行政が作ったハザードマップも、住民に配っただけで責任終了!というのではなく、それに基づきハザードベースのコミュニケーションをしたら何が分かったのか(わからなかったのか)、どこがうまく伝わったのか(伝わらなかったのか)をもっと研究すべきだと思います。
eコミマップを使った防災マップ作りのコンテストも今年で第3回を迎えました。締め切りまであと約1か月になりました。今年も力作を、そして創意工夫のある傑作!の登場に期待したいと思います。