リスク研究学会の年次大会が終わりました。学際的な学会であっても基礎分野と応用分野との乖離はまだ大きく、研究者の対話不足を感じます。あたかも基礎医学の研究者と臨床医との違いを見るような印象を私は受けました。どの分野でも現場は忙しいので、それを口実に基礎研究がおろそかにされてはなりませんし、一方で基礎研究の分野の人も現場を無視して興味だけから研究していては、何のための研究なのかわからなくなってしまいます。リスクに関するすべての人たちの間で、もっと豊かな対話が必要です。
大村はまさんは1906年生まれで、東京女子大を卒業された1928年以来長年にわたり国語科教師として常に現場で活動されてきました。彼女が語った「教えるということ(ちくま学芸文庫)」には、次のような言葉があります。
「忙しいから研究するひまがない、ということをおっしゃる方がいます。私はこれは多くの場合、口実にすぎないのではないかと思います。忙しいなどということは理由になりません。」
現場で常に教え続けてきた人が発する言葉には沢山のことを教えられます。教師であるからこそ研究を続けなければならないという姿勢は、いつになっても旺盛な前進力を持って生きたはまさんの人生そのものでもあるのでしょう。新卒で赴任した長野県の学校で、わからないことはなんでも遠慮なく先輩に聞くように勧められた彼女は、自分はとても恵まれた環境にいたとふり返っています。
日本も外交の場などで対話の不得手さが指摘されますが、原発についても対話のないうちに進められてきたことによる弊害がいまここになって重くのしかかっています。私たちはリスクに対して、もっと対話をし続ける努力を忘れてはなりません。
つぼつぼのprofile
国立研究開発法人 防災科学技術研究所
防災情報研究部門
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茨城県つくば市天王台3-1