リスク研究学会の年次大会が滋賀大学経済学部(彦根市)で行われています。年に一度の大会ですが、今年も東日本大震災に何らかのかかわりのある研究発表が目に付きました。災害や事故はリスク研究のための大きな題材ですが、昨年の震災は近年まれにみる大災害だけに、しばらくはこの題材を中心に研究が進むのは間違いなさそうです。
毎回思うことですが、この学会に出てくる研究者の方々にはコメントするにあたって「私は〇〇が専門ですので・・」と必ず最初にエクスキューズする方が大変目につきます。それはこの学会がそれだけ学際的なものであるという特徴的な点でもありますが、一方で自分の専門外の事はよくわからないけれどもという言い訳という印象もあります。しかしリスクの研究自体は専門性の枠組みを超えたところで議論するからこそ意味をなす側面も多く、自分の専門性の殻に籠ってしまっては意味をなさないのではないかと感じるところも多々あります。ですので畑違いであっても積極的に議論してもらうことを期待しています。
もう一つ気になるのは、最近研究者は科学的な物言いをすべきであって、間違っても個人の主観や価値観を持ち込まないようにすべきだという主張も結構見受けられます。しかし実際にはそれらを完璧に排除することは不可能なわけで、そのためには研究者自身の立場や視点を明確にして意見を述べることは極めて大切だと思います。これは以前に立場明示型の研究をすべきだということを書きましたが、それとも一致する点でもあります。
最後に、リスク研究の問題で大事なことの一つは、研究にかかわる各分野(例えば食品安全、衛生・医療、化学物質、防災など)が私達自身の生命に深くかかわるものですので、研究者自身の倫理性というのが重要になります。福島の原子力事故で生じた事態についても、たぶん研究者の中には倫理的な面で複雑な葛藤が生じているはずなのに、どういうわけかあまり表に出てきません。科学者や技術者の倫理規範についてももっときちんと議論し、それは教育の場でも反映されるべきではないでしょうか。大学認可のことが問題になっていますが、大学の質を確保するためにも、この点をおざなりにしないでほしいと思いますね。
つぼつぼのprofile
国立研究開発法人 防災科学技術研究所
防災情報研究部門
所在地
茨城県つくば市天王台3-1