政府の原子力規制委員会は全国の各原子力発電所で重大事故が発生した場合の放射性物質の放出量を想定して地図に表現した「拡散シミュレーションの試算結果」を24日に公表しました。今回の試算では福島第一原子力発電所の事故を基準にしているうえ、地形の考慮がなされていなかったり、風向きや風速にも一定の仮定を設定したもので、予測の精度には限界があることを理解したうえで、この結果を見る必要があります。実際、この種の予測の基礎となるシミュレーションに若干かかわった経験からすると、あらゆる想定には限界があるのはやむを得ないことは理解できるところです。
この公表された地図を見ると、おそらく一部の方々は自分の居住している地域がその拡散範囲に入っていることで、大変気にされる方もいらっしゃるのではないかと思います。もしかすると地価に影響が出るなどという見方もすでに話題になっているかもしれません。しかし、私自身としては、あいまいな要素が含まれているとしても、この種のリスク情報が積極的に社会に発信されてくることは、いまの時代にあっては歓迎すべきものと考えています。今後各地域の地形や気象条件を考慮しながら、より精度の高いシミュレーションを行ったり、さらにはモニタリング機器をより効果的に配置して、万が一事故があったら(ないことを切に祈りますが)、即座に予測結果を公表して適切なリスク回避行動に努めていくべきだと思います。あのSPEEDIの二の舞は避けたいものです。
さて、この結果を受けて発電所から30キロ圏内にある市町村ではこれから災害情報の伝達手段の見直しや、住民の避難計画などを見直すことになるでしょう。福島原発も結局は首都圏に電力を供給するための東京電力の施設であって、地元福島を含む東北電力のものではありませんでした。発電所を身近に抱えている市町村だけでなく、全国民でこのリスクの負担をどうすればよいかという議論を本格的にすすめなければなりません。原発は一部を除いて停止していますが、放射性物質はまだ大量に各発電所に保管されています。最終処分までの道のりも、まだまだです。
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国立研究開発法人 防災科学技術研究所
防災情報研究部門
所在地
茨城県つくば市天王台3-1