つぼつぼの本棚でも紹介した内山節氏の「文明の災禍」は、東日本大震災と向き合う私たち日本人が等しく考えなければならないこれからの日本のあり方について取り上げられています。いろいろな点でこの本は大切なことを考えさせてくれますが、特に私の印象に残ったのは「まず第一に思想的なグランドデザインを作らなければならない」という部分です。どんなまちをつくるのかということはよく議論されますが、大事なのは「どんな暮らし方をしたいのか」「どんな働き方をしたいのか」という点で、これを抜きにして私たちのまちづくりは進みません。
この問題は単に被災地における復興の問題だけではありません。例えば私は時々地域で防災に関わる講演をさせていただきますが、非被災地であっても、これからその地域をどのようにしていきたいのかという問題になると、市民の方の中で大きなイメージが出来上がっているところはほとんどありません。とりあえずは現状維持か、せいぜい自然環境の悪化を防ぎ、静かな住環境を守りたいという程度がほとんどです。政府機関による沢山のデータが、私たちの未来像をいろいろな意味で示してくれています。これらを参考にして、今こそ私たち一人一人が自分たちの社会の未来をデザインして、それに基づく意見を交換する必要があります。余談ですが今回消費税が増税されますが、それによってどのような未来が用意されるのか、一向に姿が見えません。これは単に災害復興の問題ではなく、日本社会のあり方の根本にかかわってくる問題です。
情報化社会は時として情報過剰で判断が難しくなる社会でもありますが、反面、誰でもが参加できる自由な社会であるはずですので、防災の未来像も多様な意見が自由に交換される中で形作られていくべきでしょう。eコミにもそのような機能が期待されますね。
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