坪川です。日本リスク研究学会の年次大会のため浜松の静岡大学に来ています。昨日までの雨も上がり、だいぶ暖かい陽気になりました。それにしてもこの秋は暖かく、とても11月とは思えませんね。
さて、東日本大震災によりにわかにリスクに対する関心が高まっています。特に津波と原発の2つの論点は、リスクの想定という観点から、いろいろな見方があるようです。私は現在の科学ではいずれも想定の範囲外という部分は少なからず存在し、それは科学の限界でもあると同時に、科学が超えてゆかねばならない課題でもあると思っています。科学に対して多くの方々が信頼を置くのは、科学で答えられる範囲であれば、必ず正しく答えられる点にあり、科学で答えられない部分について無理に答えを見つけ出そうとすることは、却って科学に対する信頼を損なうのではないかと思います。今回の災害で自然科学は、また原子力工学は大きく限界を突き付けられた形になります。それは真摯に受け止めて、深く反省をする必要があります。
一方で、これを乗り越えるために科学を利用しないで行こうとするのは、むしろ誤った対応を生み出しかねないという点で、私は大きく懸念しています。原子力の仕組みはまだまだ未完成な部分もあり、そのためにこれを契機にかなり重層化した安全な仕組みを作らざるを得ないと思います。その一つとして、安全があるレベルで補償されるまで、原発は再稼働しないという選択肢もあるでしょう。ですが、化石燃料に頼るのも自然エネルギーに頼るのも、結局は科学技術の力がなければ、効率よくエネルギーは循環しません。加えてこれらのエネルギー源は環境負荷が多きかったり、生産量が不安定だったりします。これに伴う多少の「我慢」も時には必要かもしれません。我慢を最小にするためにも、科学は必要です。
このようなさなか、国民の幸福度を指標として世界トップに立ったブータンの国王と王妃が来日されました。私たちも豊かさの意味をあらためて問い直し、幸福な国づくりに何が必要なのか、考え直す時期に来ているかもしれません。