坪川です。東日本大震災から3ヶ月。今日はJST(独立行政法人科学技術振興機構)の組織の一つである社会技術研究開発センターの方々と、これからの社会科学研究の方向性などについて、防災を軸に議論をさせていただきました。あらためて社会技術の実装性、つまり実際に社会に役立てられるようにすることのむずかしさがよくわかりました。
私たちの社会は情報化技術の進展に伴い、急速に多くの科学研究の成果が社会に使われるようになっていますが、現実に「実装」されるにはさまざまな制約や限界があるため、実現が難しいことも少なくありません。自由主義経済圏にあっては、やはり商業ベースで進められる社会技術の実現は、とても強力なルートではありますが、一方でマーケットに依存することによるリスク、たとえば景気変動や社会の選好性には大きく左右されるため、よいものだから必ず使われるはずだという図式が成立しないことはしばしば経験するところです。よって社会には2種類の力の働き、つまり自由に市場に依存するものと、市場に依存せず常に一定の進行方向や目標が国のような大きな枠組みの中で示されているものとが併存されている必要があります。
今回の震災は100年、1000年、10000年というようなタイムスパンの中で語られるような大きな事件ですが、このリスクを市場原理だけで解決するのには限界があります。被災地を復興させ、地域社会を再建するためには、公的なイニシアチブが不可欠であることは言うまでもありません。振り返れば米国はハリケーンカトリーナで壊滅的な被害を受けた際、自らの災害対応を振り返って「イニシアチブの欠如」という内部レポートを出しました。日本では首相のリーダーシップが問われていますが、リーダーシップも大事ではあるものの、まずはイニシアチブ、すなわち自発的に取り組もうという意思がなければ、この危機的状況を乗り越えられない気がします。批判ばかりするのではなく、自分だったらこうするという積極的な意見を、是非多くの関係者から提出していただきたいものです。それが復興のための本当の一歩です。
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国立研究開発法人 防災科学技術研究所
防災情報研究部門
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茨城県つくば市天王台3-1