東日本大震災の犠牲者は津波によって亡くなられた方々だけではなく、避難することによって亡くなられた方々も数多くいらっしゃったことを私達は忘れてはなりません。特に福島原発の近隣の福祉施設(老人福祉施設等)にいた方々は、錯綜する情報と、相次ぐ避難地域変更という混乱した事態に直面し、移動手段もままならないままに命を落とされた方々が沢山いたのです。最近刊行された相川祐里奈さんの「避難弱者」(写真)は、原発近くの老人ホームで生じたこのような混乱について、丹念な取材を通じて明らかにした労作となっています。震災後しばしば報道され有名になった大熊町の双葉病院では、40名を超す犠牲者が生じましたが、それ以外にも原発事故の影響圏内にあった福祉施設では、震災以前を大きく上回る死亡率が推移している事実がわかります。

このようないわば避難弱者、避難困難者を増やさないようにするにはどうしたらよいのでしょうか。今回の事故とその対応を見ていると、私たちの社会には有事に弱い人を守るだけの十分なキャパシティが、平時には十分に備わっていないことがわかります。折しも、今月11日、ロンドンでG8による世界認知症サミットが開催され、2050年までに世界の認知症人口が1億3500万人に達するだろうという見通しが示され、国を超えた認知症対策への取り組みが急務であることが強くアピールされました。問題が難しいのは他の社会的課題と同様、認知症もまた途上国においてその患者数が急増するとみられることです。医療的対策が十分ではない途上国では、これから急速に高齢化に突入すると、日本よりもはるかに厳しい現実に直面することになります。日本は世界一の高齢化社会で培った経験を、もっと世界に活用する努力が必要です。
最近、さまざまな地域で講演をさせていただく機会がありますが、その際避難所の話がよく話題に上ります。災害時に設置される避難所の様子を見ると、その地域の社会性がよくわかるので、防災の世界では地域を映し出す鏡のように言われます。ですが、もし避難所に認知症の家族を抱えた方が来られたら私たちはどう対応するでしょうか。このような事態を想定して、次のような資料が公開されています。
わかりやすいイラスト入りのガイドブックになっています。社会福祉協議会をはじめ、地域で防災への支援活動をご検討されていらっしゃる方々には是非お役立ていただきたい資料です。