実は私も国立情報学研究所(NII)が保有するテレビのアーカイブシステムを利用して、この未曾有の震災の直後にどのような情報が発信されていたかを再体験させてもらいました。わかりやすく言えば、3月11日の地震発生直後に首都圏で放送されたすべての地上波放送を再試聴し、それを見ていれば何がわかったのか(何がわからなかったのか)を確認したわけです。数日分の録画を全部見るのは大変ですが、その一部を反映したタイムラインは防災科学技術研究所の主要災害調査の付録として公表しています。結論から言えば、
1)3月11日にテレビにへばりついてすべての放送を観、理解していたとしても、福島の被災地から適切な避難をすることは困難であったと思われる。
2)その後に発生するさまざまな事態(ガソリン不足、計画停電、長距離避難、放射能除染対策など)を、メディアの放送から知ったり、想像したりすることは困難である。
3)津波被害の全体像を描くことは、東北地方の地形や地勢を理解していればある程度は想像できる部分もあるが、個別の地区でどこまで津波が達していたのか、どれほどの波高や浸水深になったのかは、報道されている数字だけでは全く分からない。
というのが正直な感想です。
私達は社会に起きる多くの出来事について、当事者でない限り大抵は「メディア」を通じて知り、理解し、対処することになります。その意味でメディアがどのような役割を果たしていたか(果たしていなかったか)については、震災後きちんと検証することがきわめて重要です。大本営発表だったという原発報道にばかり目が行きがちですが、実は多様な放送がなされていたという事実を私達はもっとよく知る必要があります。東京大学出版会から出された「メディアが震えた-テレビ・ラジオと東日本大震災」(丹羽美之・藤田真文編)はテレビ、ラジオなどのメディアがそれぞれどのような苦労に直面しながら情報を発信していったか、多数の事例が紹介されています。今一度、あらためてこの震災におけるメディアの在り方について思いを巡らせるべきではないかと思います。