実は今回火災の発生した「ベルハウス東山手」は、昨年11月に旅行で長崎に立ち寄った際に歩いたところで、坂の街長崎でもあり眺めはいいけれど、高齢入居者が散歩するのは大変だろうなと思って通り過ぎていたところでした。下の写真はその際に撮影したものです。オランダ坂に繋がる石畳の歩道に面した側からは、坂の下に拡がる居室部分は伺えませんが建物の外観もなかなかおしゃれで、長崎の街に綺麗に溶け込んでいたのが印象的でした。
確かに消防法上はスプリンクラーの設置「義務」は無いのかもしれませんが、日本にはこの種の「安全に関する基準」について最低限のものを守るか守らないかという2択しかなく、よく守っている、基準以上にさらに上の性能が担保されているという評価がされることが少ないように思います。考えてみれば規定以上の性能を与えたとしても、コストがかかるだけで経済的には不利益になるだけですので、あえて法定の性能以上のものを作ろうという動機にはならないわけです。たとえ広さが規定より狭かろうが、入居者の数や居室の数が規定より少なかろうが、大規模な施設以上に安全対策をしてもよいのではないかと思いますが、その方向に行動が惹起されるような仕組みが少ないことが問題です。「ゆとり」を持っていることに対するメリットとして、たとえば税が軽減されるなどの仕組み(インセンティブ=誘因)を作って、安全の質を高めていくような流れを生み出すことが必要だと思います。
私の家内も福祉施設につとめていますが、彼女に言わせると夜勤帯で1人で9人もの認知症高齢者をケアするのは平時でもいっぱいいっぱいなようですから、火災や地震の際にはどうなることやらというのが実態のようです。スプリンクラーや防火扉の効果はだいぶ前から実証されているのですから、もっと軽費で設置できるように技術開発を進めるのも高齢社会では喫緊の課題でしょう。自分でとっさの判断ができない高齢者のためには、この種の防災設備が不可欠です。