あまり知られていませんが、今回の大震災で、遠野市は岩手県沿岸市町村の後方支援という非常に重要な役割を担いました。後方支援というのは被災市町村に隣接し、かつ被災程度がそれほど大きくない自治体が果たす役割として今一番注目すべきものと思われます。そのため遠野市には全国のさまざまな自治体から見学や問合わせが集中しています。
この後方支援には数年前からの布石がありました。遠野市長の発案で遠野市と住田町が核となって宮古から大船渡に至る岩手県三陸沿岸に津波が発生した場合の対応を訓練していたのです。自衛隊、警察、消防が連携して行う訓練は、平成20年に「みちのくALERT2008」として実施され、遠野市の運動公園や河川敷を基地にして総勢1万8千人が参加するという形で行われていたのです。その甲斐もあって、今回の現場での災害対応が非常に迅速に行われたという事実があります。津波の規模の想定や、それによる被害の大きさの想定には大きなずれがありましたが、構想と対応プログラムはまさにぴったりだったわけです。これは現場における「災害対応シナリオ」が作られていたことの一つの効果が明確にされたとみることもできるでしょう。
そこで私たちは、遠野市の災害対応が実際どのように行われ、どこがうまくいき、どこがうまくいかなかったのかを検証させていただくことにしました。現在、市が保有するあらゆる災害対応関連のドキュメントをデジタル化し、それを分析することに加え、関係者へのインタビューなどを行い、事実関係のタイムライン分析を進めています。遠野市長をはじめとして市の幹部職員の方々の情報共有や、それに基づく決断がどのように行われたのか、これによって明らかにしたいと考えています。
後方支援という考え方は、日本の防災計画に大きな変革を求めることになる可能性があります。というのは、これまでの地域防災計画は自分の町が災害で被災した場合の対応を考えるだけでしたが、隣接する町が被災して自分の町が軽微だった場合には、どのような支援を行うことができるか、まさに他者のための後方支援も防災計画の中で検討しておくことが必要だと考えられます。どこが被災した場合に何ができるか、それを考えるためのシミュレーション技術は、いまずいぶん進歩しています。これをきっかけに、一歩でも防災の考え方が変革されることを期待したいと思います。
遠野市役所庁舎(実は被災して、現在一部が取り壊し中)